月が青く染まる夜に
••┈┈┈┈••

川沿いに出ると、思った以上に風が強かった。
あれだけ隣のベランダから洗濯物がはみ出してはためいていたくらいだ。当然といえば当然なのか。

マフラーに顔をうずめた。

川の水面が細かくさざめいて、光をばらばらに散らしている。
空は高くて、どこまでも青い。


日曜日の霜鳴川は、拍子抜けするほど静かだった。

ベンチがいくつか並んでいる。
そのどれにも、人はいない。


────来てない。
それもそうか。時間も、場所も、何も決めていない。

自分のブーツの足音だけが、やけに響く。
とりあえず川沿いを歩くことにする。

散歩。そう、ただの散歩。

手袋を探してポケットに手を入れた時、じゃら、と小さな音がした。

違う。自分のじゃない。


振り向くと、階段から降りてくるひとりの人影。

黒のスタンドカラーコートに、ダークグレーのマフラー。
ラフな細身のパンツ。
斜めにかけたボディバッグ。
耳には有線イヤホン。

髪の毛はいつもと同じで目にかかっていて、自然な無造作な状態。
ポケットに手を突っ込んだまま階段をくだる。

歩くたび、バッグのファスナー横で何かが揺れている。
信号機のキーホルダーだったけど、見慣れたやつじゃない。
青と赤がくっきりした、小ぶりなタイプ。

風にあおられて、そのキーホルダーが軽く跳ねる。


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