2Kの君~終電帰りの限界OL、2Kの扉を開けたら異世界騎士の部屋でした
「リィン」

 自分を呼ぶ声がする。

 暖炉の前で転がっていた凛子は、手にしたまどろみを放すまいと半目を開けて声の主を見やった。

 シェイルが呆れたような表情で、自分の横に腰を下ろす。
 ばさりとお腹の辺りにかけられたものは、膝かけだった。
 冬場オフィスで使っていたものなのだが、春にクリーニングに出し、夏の今はクローゼットの隅で存在を忘れられていたものだ。

 週末の掃除に、衣類の出し入れまでは予定していなかったのだが、調節の難しいこの異空間の室温に、羽織るものを求めて収納ケースを漁った結果だった。
 凛子の部屋はエアコンの必要ない過ごしやすい温度でどちらかというと涼しい位だ。
 反してシェイルの居室は暖炉の暖かさが違和感無いほどの室温なのだ。

 凛子が暖炉の前を陣取って寝転がっていたのは、単純に暖炉が目新しいもので憧れにも似た気持ちを感じたから。
 そして、彼女の主な作業には暖炉の炎が必要不可欠だったからだ。

 調理然り、読書然り。

 凛子の部屋よりか、こちらの部屋の方が断然に明るい。

 どういった原理か不明だが、石造りの壁面に作りつけられているトーチの炎も一昼夜経とうとしている今になっても、消える気配が無い。
 凛子が探し当てた華型キャンドルは、既にそのかわいらしい形を崩し、短くなった芯が辛うじて残っているというのに。

「お前には慎みが無いのか」

 はしたない。と存外に言われ、凛子はオヤジ――。と心の中で答える。

 枕にしていたクッションにあごを載せ、足をばたばたさせると、ひざ掛けがめくりあがりむき出しの両足が姿をみせる。
 凛子のルームウェアはローウエストのホットパンツ。
 上がロングTシャツ。

 暑かったり涼しすぎたりする為調節が難しい。
 履いていたもこもこのソックスは転寝している最中に脱いだようだ。
 自分にとっては当たり前の部屋着でも異世界人から見ると露出狂になるらしい。

 出会ったときに至ってはキャミソールにパンツ姿だったのだから、今更騒ぎ立てるものでも無いのに。
 因みにお風呂に入れなかったお陰で、髪の毛は適当に纏め、前髪はヘアピンで留めている。
 メイク落としで化粧を拭き取ってしまったからすっぴん。
 ついでにフレームの少し曲がった眼鏡。
 オプションとしてはノーブラ。

「だって、自分の部屋だし。せっかくの休みなんだからリラックスしたいじゃない」

「ここに俺が居るということを忘れるな」

「どきどきしちゃったりする? 年頃の異性が近くに居ると」

 からかうような問いにシェイルは言葉を詰まらせるが、むっとしたように「子供には興味ない」と答える。

「子供? わたしが? そいえばシャールって何歳?」

「先月十八になった」

 単純な疑問への答えに、凛子は声を失う。

「……ええと、冗談言ってるわけじゃないよね?」

 小さく頷かれ、ずり落ちた眼鏡を掛けなおした。
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