扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
王宮の東西南の外門を警備しているのは、近衛と軍本部と王都支部から混合で選出された警備専門の部隊で少し特殊である。王国の顔とでも言える王宮門前で繰り広げられる見目麗しい青年達の交代時の行進は、言わば国内外に向けた宣伝。毎日定時で交代の行進が行われる時は、ちょっとしたイベントでもあり、見学も多い。
凛子の王国軍本部での仕事初日は、シェイルの副官ウェントワースの秘書官を務めているローワンに連れられて、おおまかな組織概要を勉強する事で既に半日が過ぎた。
時折小ばかにしたように眼鏡を押し上げ冷やかな視線を投げかけてくるのが、鼻につくものの、彼の説明は非常に判りやすくもあり、天文院ではOJTを全く体験していなかった凛子にとっては新鮮で非常に有難い。本当は手帳に記録をその場で書きつけたい所だが、凛子の所有する現代日本の文具等は、天文院長官の執務室以外で使用するのをきつく禁じられている為、我慢だ。
何度も頭の中で反芻するうち、実際、漠然としていなかったイメージの軍組織が、頭の中でうまく線を繋いでいく。
例えば、王を頂点とするアゼリアス聖王国はいずれのトップも聖王の名が挙げられる。
その下に執政庁(内政外政及び財務総務)、学術庁(学問研究開発記録)、聖王騎士団、そして横組織との直接的な繋がりを持たない聖王庁(教会組織)があり、さらに各庁の下部組織がぶら下がる。
ラストゥーリャの所属している天文院は学術庁下の天文院であり、その長官である彼が、シェイルより地位が低いと話していたのは、聖王騎士軍組織の天文院にあたる部署が、階層的には各都市にある支部であり、その支部長が同位になるからだ。
それにしても、姿勢良くかつかつと軍靴を鳴らし先を行くローワンの歩みは、正直いうと凛子にとってはかなり早い。アゼリアスで生活を始めてから、体力は相当ついたとは思う。が、半日も休憩無くして王宮内をうろうろしていると、足が縺れそうになる。
足首をきっちりと締める革靴の内部は、履きなれていない所為かまだ硬く、爪先や踵の上あたりにじんわりとした痛みを伴っている。靴を脱いだら酷い浮腫みが見られるかもしれない。
靴擦れ出来たかも。と半ば涙目になりながら、短く切りそろえられた銀髪を睨みつける。勿論、ローワンの所為ではないのだが、徹頭徹尾凛子に対して一切の配慮無く、どちらかというと、お荷物を抱えられた大迷惑を顔に張り付けている男とは、そう簡単に相容れない気がする。
ローワンが自分に対して、良くない印象を持つのも重々承知。というか、軍本部のほぼ全員がそう感じていたとしても、仕方がない。なぜなら凛子の現在の立場は、必然性無く捻じ込まれている。
右将軍は今まで秘書官を持ったことが無かった。自分の周囲に他人が在る事をあまり好まない性質であるのはとても有名で、なおかつ秘書官を持たずとも、彼の仕事ぶりに綻びが生じた事は今まで一度もなかった。故に、その必要性を感じられないから、秘書官を持たなかったのだ。
が、この配置換えのタイミングでも何でもない時期に、突然一人の秘書官の登用を決めた。しかも自ら推挙してだ。