扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました

「やあ、昼がこの時間になったって聞いて。会議が終わったのがつい先程だったから、ちょうど良かったな。ご一緒してもいいかい?」

 爽やかすぎる笑顔を浮かべ、凛子の前の椅子を引くと、返事を待つ間も無くそこに座り長い足を組んだ。ローワンも無言でそれに続く。

「僕はここの食事が結構好きなんだけどね。ローワンは飽きたって小言ばかり言ってくる」

「そんな事は一言も言っておりません。偏り過ぎると言っているんです」

 見るとウェントワースの皿の上には肉の塊が五つほど転がっており、それ以外はナンの様に平べったい形で薄く焼かれたパンが、間にバターやクリームを塗りたくられてクレープ状に積みあがっていた。

 ナイフでスライスした肉塊を引っぺがしたパンの間に挟み込み、肉サンドイッチとでも言うべきだろうか……只管に肉肉しい多層肉クレープ状態の物を口に運ぶ。端麗な容姿に反する事なく、非常に美しい所作で、ナイフとフォークを使い綺麗に平らげていく様子を見ているだけで、何故か胸が一杯になった、咀嚼していたパンを水で流し込むようにして飲み込んだ。

「学術庁とは全く雰囲気が違うだろう?」

 ウェントワースの問いには、素直に頷ける。
 ラストゥーリャのお遣いとは程遠い。それ以上の業務を任されることになりそうだった。体力の強化や騎獣の騎乗訓練も、明日から組み込まれており、考えただけでぞっとしてしまうが、対価を貰う訳なのだから、今更無理ですと言えるわけがない。

「そうですね……体力的な面ではとても不安を感じています」

 情けなそうに答えた凛子に、ウェントワースは微笑みつつも大きく頷き、ローワンは氷の視線を突き刺してくる。

「新しく入隊した若手は揃って最初の集中鍛錬で吐くかな。まあ非常時に備えて、体を鍛えておくのは悪い事では無いよ。健康にも良いからね」

 快活に笑ったウェントワースに、凛子は眉毛をやや下げたまま、ここ数日何度口にしたか判らない「頑張ります」を繰り返すしかない。

 ウェントワースは、皿に視線を落とした凛子をじっと嘱目した。そこには先程浮かべていた親しみ深い笑みは、既に無かった。いっそ不躾と言ってもいいほどの視線で、目の前に居る女を観察するように眺めている。

「ところで君は天文院長官の縁故と聞いたが」

「えっ、はい。一応、そうです」

 弾かれたように顔をあげた女に対しては、再び笑みを浮かべ返す。

「一応?」

「と、遠縁なので、ちょっと遠すぎて縁故と言われると答えづらいというか……」

「そうなんだね。西方大陸出身と聞いたが、蒼海向こうの東方大陸と違って、この大陸との交流がほぼ無い場所だし、良ければ向こうの話を聞かせて欲しいなと思って」

「お話……というと、例えばどんな事ですか?」

「そうだな、特産品でも、国の成り立ちでも、私は余り国外に出ないから、他所の国の話ならなんでも興味があるよ」

「特産品……」

 すぐ頭に思い浮かんだのは、炊き立ての白米だった。
 アゼリアスにも似たような穀物はあるものの、粟や麦が主だ。
 しかもそれらを炊いて調理したものにはまだ出会っていない。

 それに醤油や味噌。米から作られた日本酒もまだ出会えていない。豆類はあるのだから、いずれ味噌や醤油に類似したものには出会えるかもしれないと期待している。
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