2Kの君~終電帰りの限界OL、2Kの扉を開けたら異世界騎士の部屋でした
本日の作業はそろそろ終わりらしい。
スマートフォンで時間を確かめると、間もなく日曜日へと日付が変わる頃だった。
ウエブページを閲覧する事も無いため、スマホの充電は暫く持ちそうだ。
「順調?」
結局、暖炉の前に座り込んでしまった美丈夫に声を掛けると、ノートをぱらぱらと捲っていた手が止まる。
大きな手にボールペンという組み合わせは、なかなか良い組み合わせだな、と、尋ねたものの凛子はどうでもいい事を考える。
けれど十八歳と言っていた。
もっと、健康的なもの。野球のバットとか。ちょっと違う。
バスケットボールはどうだろか。
いや、車のハンドルを握る手なんか良いかもしれない。
「判った事がいくつかある」
書き写された紋様の一部分を、シェイルはペン先で示す。
凛子にはどこが魔術云々術式なのかさっぱり判らないが、シェイルはボールペンを赤インクに切り替えるとぐるぐるとマークをつけた。
「例えば俺とリィンが会話できる理由」
「ああ!」
言われてみると。
「シャール、日本語話してるよ」
「にほんごというのがリィンの世界言語か?」
「世界言語って、良く判らないんだけど……わたしの世界にある言語で、わたしの国の言語。わたしが話している言語」
「という事は他にも?」
「いくつあるのかわからない位あるよ。なんせ世界190カ国超えているんだから。古語とかいれたらえらい数」
「190? 多いな」
「そっちの世界には、いくつくらいあるの?」
「俺の国がある大陸に五カ国。山脈を越えた西側は小さな部族がいくつかあると聞いているが正確な数までは不明だ。蒼海の向こうにある大陸の三カ国とは交流しているが、それより向こうも判らないな。把握している範囲で言うと、各国で使用される古語を足しても両手を少し超えるくらいで、殆どの国が大陸共通語を話す」
二十世紀に入って飛躍的に発達した科学技術によって、凛子の世界は近くなった。
修学旅行で近場の海外に行くのも珍しくないし、繁忙期に国外脱出を計る者も少なくない。
日本の裏側にある国とも電話は通じるし、インターネットや衛星回線を使用すれば大した料金がかからない。
「ここの式に、俺が扉を繋げた際、扉の向こう側――今で言うとリィンの世界を構成している理の基幹となる物を分けてもらえるように書かれてある」
「うーん、それが言語?」
「基礎だからじゃないだろうか。言葉の通じない相手と意思疎通を図るのは難しい」
「そういうもんかね」
「そういう物だ」
「でもさ、偶然シャールの部屋の向こうにわたしの部屋があったんでしょう? いきなり砂漠とか迷宮とかだったらどうするの? 野垂れ死ぬじゃない」
「それは、ここに書かれてある」
先ほどマークした箇所の右下あたりに赤丸が描きこまれる。
「最低限の衣食住の確保。身の安全の確保。現状、衣食住はどうにかなっているし、リィンになら寝こみを襲われ命を落とす心配は無い。ごろごろ寝転がって酒を飲んでいるぐらいで無害だ」
からかうように視線を流され、凛子は頬を膨らませる。
「今は休みだからいいの! 普段は超絶多忙なんだから」
「二十六歳だしな。 結婚は?」
「さらりと失礼なこというよねー。自分は青春謳歌しちゃってるからって」
「あの部屋の様子だと、していないだろうな」
「していません。 わたしの世界ではね、二十六歳で結婚しちゃうと、割かし早いねって言われるんだから。会社の姉さん達だって、三十超えて独身の人ごろごろいるし」
「女がそんなに働いてどうする? 連れ合いをもって子供を成した方が幸せなんじゃないか?」
「それ男尊女卑的発想。やりたくて仕事しているんだからいいの」
「そんなに働きたかったのか?」
「やりたいことやってお金稼いで、そのお金で美味しいお酒を飲める。最高じゃない」
スマートフォンで時間を確かめると、間もなく日曜日へと日付が変わる頃だった。
ウエブページを閲覧する事も無いため、スマホの充電は暫く持ちそうだ。
「順調?」
結局、暖炉の前に座り込んでしまった美丈夫に声を掛けると、ノートをぱらぱらと捲っていた手が止まる。
大きな手にボールペンという組み合わせは、なかなか良い組み合わせだな、と、尋ねたものの凛子はどうでもいい事を考える。
けれど十八歳と言っていた。
もっと、健康的なもの。野球のバットとか。ちょっと違う。
バスケットボールはどうだろか。
いや、車のハンドルを握る手なんか良いかもしれない。
「判った事がいくつかある」
書き写された紋様の一部分を、シェイルはペン先で示す。
凛子にはどこが魔術云々術式なのかさっぱり判らないが、シェイルはボールペンを赤インクに切り替えるとぐるぐるとマークをつけた。
「例えば俺とリィンが会話できる理由」
「ああ!」
言われてみると。
「シャール、日本語話してるよ」
「にほんごというのがリィンの世界言語か?」
「世界言語って、良く判らないんだけど……わたしの世界にある言語で、わたしの国の言語。わたしが話している言語」
「という事は他にも?」
「いくつあるのかわからない位あるよ。なんせ世界190カ国超えているんだから。古語とかいれたらえらい数」
「190? 多いな」
「そっちの世界には、いくつくらいあるの?」
「俺の国がある大陸に五カ国。山脈を越えた西側は小さな部族がいくつかあると聞いているが正確な数までは不明だ。蒼海の向こうにある大陸の三カ国とは交流しているが、それより向こうも判らないな。把握している範囲で言うと、各国で使用される古語を足しても両手を少し超えるくらいで、殆どの国が大陸共通語を話す」
二十世紀に入って飛躍的に発達した科学技術によって、凛子の世界は近くなった。
修学旅行で近場の海外に行くのも珍しくないし、繁忙期に国外脱出を計る者も少なくない。
日本の裏側にある国とも電話は通じるし、インターネットや衛星回線を使用すれば大した料金がかからない。
「ここの式に、俺が扉を繋げた際、扉の向こう側――今で言うとリィンの世界を構成している理の基幹となる物を分けてもらえるように書かれてある」
「うーん、それが言語?」
「基礎だからじゃないだろうか。言葉の通じない相手と意思疎通を図るのは難しい」
「そういうもんかね」
「そういう物だ」
「でもさ、偶然シャールの部屋の向こうにわたしの部屋があったんでしょう? いきなり砂漠とか迷宮とかだったらどうするの? 野垂れ死ぬじゃない」
「それは、ここに書かれてある」
先ほどマークした箇所の右下あたりに赤丸が描きこまれる。
「最低限の衣食住の確保。身の安全の確保。現状、衣食住はどうにかなっているし、リィンになら寝こみを襲われ命を落とす心配は無い。ごろごろ寝転がって酒を飲んでいるぐらいで無害だ」
からかうように視線を流され、凛子は頬を膨らませる。
「今は休みだからいいの! 普段は超絶多忙なんだから」
「二十六歳だしな。 結婚は?」
「さらりと失礼なこというよねー。自分は青春謳歌しちゃってるからって」
「あの部屋の様子だと、していないだろうな」
「していません。 わたしの世界ではね、二十六歳で結婚しちゃうと、割かし早いねって言われるんだから。会社の姉さん達だって、三十超えて独身の人ごろごろいるし」
「女がそんなに働いてどうする? 連れ合いをもって子供を成した方が幸せなんじゃないか?」
「それ男尊女卑的発想。やりたくて仕事しているんだからいいの」
「そんなに働きたかったのか?」
「やりたいことやってお金稼いで、そのお金で美味しいお酒を飲める。最高じゃない」