扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
「しかし討伐の多さ、どうなってんだ」
「休みが一日もねえ」
「魔物の質が変わってねえか? 妙に凶暴だし」
彼らの会話の断片は、昨日まとめた分析資料の内容と、奇妙に一致している。
「春先からだよな、変なのは」
「王都支部も警備強化に踏み切ったらしいし。あの通り魔事件も、まだ片付いてねえ」
通り魔事件──。無意識に、指先が首筋へ触れた。痣は消えた。それでも、あのひどく冷たい手の感触だけは記憶から離れない。
「髪を切るだけで命までは奪わないなんて、何が目的なんだか」
「魔術の材料って噂もあるぜ。色持ちの髪は魔力を宿すとか」
「でも、被害者全員が色持ちってわけでもねえだろ?」
「いや、最初の被害者は──」
その先が口に出る前に、誰かが咳払いで会話を断ち切った。
「……まあ、物騒な話はやめとこうぜ。今日は歓迎会だ」
凛子は手元の酒を見つめた。琥珀が揺れ、妙に遠い味がした。こういう時は飲むに限る。
「じゃあ、飲み比べ、しませんか? 明日に支障出ない程度に!」
新人の言葉に、騎士達が大いに沸いた。凛子の隣の席では、カトレアが信じられないものを見る様な目つきをしている。
「飲み比べるほど、飲めるのか?」
「飲めます! ちなみに私のせか……国では、飲んでも飲んでも酔わない人の事をザルと言うのですが、私はなんと……」
反対側に居た騎士がグラスを手にしたまま興味深そうに見つめる。
「ザル通り越してワクでーす! こっちでいうとザルは笊、ワクは枠ですね!」
「目の粗いあれのこと?」
「そうそう!」
「それの枠だけ?」
「です!」
胸を張って断言する凛子を前に、騎士たちは一瞬ぽかんとした顔をしたが、すぐに面白がるように笑い声を上げた。
「じゃあ試してみるか! どっちが先に潰れるか勝負だ!」
「俺、強い方だけどな? 覚悟しろよ、秘書官殿!」
どこかで誰かが酒瓶を掲げ、いつの間にか空いた杯が卓の上にずらりと並んでいた。カトレアは額に手を当てている。
「お前たち……ほんとうに馬鹿じゃないの」
「隊長もどうです?」
「冗談じゃない。私は匂いだけで倒れる」
その宣言どおり、カトレアはほんの一滴を舐めただけで耳まで真っ赤になり、すぐさま水を求めて席を離れる羽目になった。
さて、勝負はというと──。