扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇
軍官舎に戻ると、カトレアが心配そうに寄ってきた。
「今日は一段と疲れているな」
「ちょっと……色々ありまして。すごく飲みたい気分です」
凛子は曖昧に笑う。
「無理はするなと言ったはずだが、深酒は感心できん」
カトレアは凛子の肩に手を置く。
「軍の仕事は、思っている以上に過酷だ。特に、閣下のような方に仕えるのは」
「カトレアさんも、閣下の下で働いていたんですか?」
「いや、私は近衛に居た頃、何度か共同任務をしたことがあるだけだ。だが——あの方は、誰よりも厳しく、誰よりも孤独な方だ」
その言葉が胸に刺さる。
「ああ。王族でありながら、常に最前線に立つ。部下を守り、国を守り——しかし、自分を守る者は誰もいない。だから、秘書官のお前が少しでも負担を軽くしてやれ。心配しているだろう」
「……できるかな」
「できるさ。あの大賢者の下で鍛えられたんだ。気持ちがあれば十分だ」
優しい声が凛子を包む。が、彼女の心は別の方向を向いていた。暗く、遠く、誰にも言えない場所へ。
「ありがとうございます」
「さあ、今日はもう休め。明日からまた、忙しくなるだろう」
王宮の灯の向こう側に広がる城下の明かり。闇の中に浮かび上がるそれらは、まるで夜空を切り取ったかのように煌めいている。胸の奥でにじむ感情が、次第に正体を得ていった。
「そっかあ……」
彼との記憶は、今や自分だけのもの。
彼は忘れ、彼女だけが覚えている過去。
今夜、シェイルが向かう場所には──自分の知らない彼の顔が、きっとある。
想像しただけで、胸の奥がじくりと疼く。
そしてその痛みこそが、答えだ。
軍官舎に戻ると、カトレアが心配そうに寄ってきた。
「今日は一段と疲れているな」
「ちょっと……色々ありまして。すごく飲みたい気分です」
凛子は曖昧に笑う。
「無理はするなと言ったはずだが、深酒は感心できん」
カトレアは凛子の肩に手を置く。
「軍の仕事は、思っている以上に過酷だ。特に、閣下のような方に仕えるのは」
「カトレアさんも、閣下の下で働いていたんですか?」
「いや、私は近衛に居た頃、何度か共同任務をしたことがあるだけだ。だが——あの方は、誰よりも厳しく、誰よりも孤独な方だ」
その言葉が胸に刺さる。
「ああ。王族でありながら、常に最前線に立つ。部下を守り、国を守り——しかし、自分を守る者は誰もいない。だから、秘書官のお前が少しでも負担を軽くしてやれ。心配しているだろう」
「……できるかな」
「できるさ。あの大賢者の下で鍛えられたんだ。気持ちがあれば十分だ」
優しい声が凛子を包む。が、彼女の心は別の方向を向いていた。暗く、遠く、誰にも言えない場所へ。
「ありがとうございます」
「さあ、今日はもう休め。明日からまた、忙しくなるだろう」
王宮の灯の向こう側に広がる城下の明かり。闇の中に浮かび上がるそれらは、まるで夜空を切り取ったかのように煌めいている。胸の奥でにじむ感情が、次第に正体を得ていった。
「そっかあ……」
彼との記憶は、今や自分だけのもの。
彼は忘れ、彼女だけが覚えている過去。
今夜、シェイルが向かう場所には──自分の知らない彼の顔が、きっとある。
想像しただけで、胸の奥がじくりと疼く。
そしてその痛みこそが、答えだ。