扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
 翌朝、凛子は寝不足のまま執務室に向かう羽目になった。

 鏡に映った自分の顔は酷いもので、目の下には薄く隈ができている。
 こんな顔色をしているのは校了前くらいだったか。デザイナーとデータ納品まで、リアルタイムで誤字の修正にあたってたのをふと思い出す。

「ひっどい顔」

 就業前から陰鬱な気持ちはどんよりと増す。執務室の扉を開けると、既にシェイルが机に向かっていた。その表情はいつも通り無愛想で、昨夜の様子を窺わせるものは何もない。

「遅い」

 開口一番、冷たい声が飛んでくる。

「申し訳ありません」

 なんだかこの挨拶は毎度恒例になっているな、とどうでもいい感想を心の中で呟きながら、凛子は自席に向かった。

「リゼットは協力を承諾した」

 淡々とした報告が背中へ飛んでくる。

「報酬は金貨五百枚。それと、事が済んだ後の店の改装費用も王国が負担する」

 凛子は書類に目を落としたまま、なんと答えて良いものなのか考えながら、シェイルの言葉をそのまま記録しながら「はい」とだけ返事をした。

「今週中に、彼女及び周辺に護衛を付ける予定だ。表向きは常連客という形だ。お前は護衛の人選と配置を考えろ。出来るな?」

「え!? 私が、ですか?」

「店は下弦通りの蒼月亭。三階建ての石造り。客室は十二。従業員は女が八名、用心棒が四名。詳細は記載通り」

 シェイルは一枚の書を凛子の机に置き説明した。

「店の見取り図、従業員の名簿。それから、常連客のリストだ」

 几帳面な文字で書かれた情報は、驚くほど詳細だった。従業員一人一人の年齢、容姿、特技まで記されている。

「……閣下は、この店に詳しいんですね」

 言ってから、凛子はとてつもなく後悔した。昨夜あのような突き放された方を、したばかりだというのに。今のは、非常に恣意的で、凛子の柄ではない。シェイルの青灰色の瞳に、すぐさま射抜かれる。

「護衛の人選は今日中に。明日には配置を始める。遅れは許さん」

 溜息とともに吐き捨てられた声は、有無を言わさぬ冷たさを帯びていた。

「了解です!!」

 凛子は何となくこの場を逃げるように資料を抱えて、席を立った。


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