扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました

 短時間のやり取りで、精神的にもとても疲れた気がする。凛子は、名簿を見なおし、ローワンとも話し合って、推薦された三人を護衛として提案する事を決めた。

 シェイルとリゼットの関係。
 それが純粋に情報の取引だとしても——何度も通っているということは。

 その日の夕方、凛子は護衛の配置計画提案書をシェイルに提出した。

「ルーファ、ダリウス、エルネストの三名。交代で二十四時間体制で警護に当たります。配置図も作りました。各自の持ち場と、緊急時の連絡方法も記載してあります。またこれらの作成にあたってウェントワース様とローワン殿のご協力も仰ぎました。私はまだ軍を構成している人員に明るくないので」

「構わん、それが最適な行動だと思う。明日、三名に直接説明しておくように、それとお前も一度、店を見ておけ」

「え?」

「護衛の配置を考えたのなら、実際の現場を見ておく必要がある。今夜、俺と一緒に来い」

「ここここ、今夜……ですか?」

「ああ。七の刻に官舎西門前で軍服は目立つから私服で」

 資料室の扉を開けたシェイルの背中が中に消えていくのを、呆然と見つめ立ち尽くした。

「はあ…………つかれる」

◇◇◇

 以前仕立てた私服を着て、凛子は立っていた。薄手のダブルボタンのコートに、シンプルなワンピース。少し伸びつつある髪は、気を抜くとはねてしまうため、両サイドとも耳の後ろで留めている。シェイルの声に振り返ると、彼も軍服ではなく、黒い外套を纏っていた。

「行くぞ」

 もしかしなくても、徒歩で行くのだろうか。任務とは云え、目立ってしまうと困るから、お忍びという形なのだとは思うのだが。何も王宮から歩いていかなくても、と凛子は少し考え、だが、そのまま黙っていた。

 夜の街は、昼とは違った表情を見せていた。灯りに照らされた石畳。行き交う人々の少し酔った笑い声。凛子は横を歩くシェイルを盗み見る。外套に包まれたその姿は、王宮で見る時よりも——どこか、柔らかく見えた。先日足を伸ばした星霜通りを行き過ぎ、やがて、二人は下弦通りに入る。夜の歓楽街は、賑やかだ。酒場からは笑い声が漏れ、娼館の窓には艶やかな灯りが揺れている。食欲をそそる匂いとは違う、甘く思考を惑わすような香りだ。目的地は、三階建ての立派な石造りの建物。入口には、蒼い月を模した金属製の看板が掲げられていた。

 蒼月亭——。

 慣れた手付きで、入り口のベルを鳴らすシェイルに遅れ、凛子は唾を飲み込むと、思い切って店内へと足を進めた。
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