扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
 軍官舎に戻ると、カトレアが入り口で仁王立ちをしていた。

 この人、よくこの体勢で立ってるけれど、もしかして自分の事を待っていてくれたりするのだろうか。

 官舎は各人が個室の為、他者と関わらないように生活しようと思えば、可能である。特に凛子やカトレアは女性専用階を使用しているからだ。

「何かあったんですか?」

「夕食の時間だ。行くぞ」

 カトレアは凛子の顔を覗き込む。

「また、何かあったのか?」

「いえ、別に……」

「嘘をつくな。顔に出ている」

 呆れたように首を振られ、背中をぐいぐい押されて凛子は歩き始めた。

「まあいい。とりあえず食え。話はそれからだ」

 有無を言わさぬ態度に、凛子は頷くしかなかった。

 食堂には、既に何人かの騎士が集まっていた。
 凛子の姿を見つけると、数人が手を振る。

「おお、リィン殿!」

「久しぶりだな。最近全然見ないから」

「閣下に使い潰されてるんじゃないかって心配してたんだぜ」

 冗談めかした声に、凛子は苦笑する。

「そんなことないですよ。ちゃんと休みもらってますし」

「本当かー? カトレア様、リィン殿をちゃんと見張っててくださいよ」

「当然だ」

 カトレアが胸を張って断言すると、騎士たちが笑う。
 凛子は温かいスープと、焼きたてのパンを受け取ると、カトレアの隣に座った。

「お気遣い、ありがとうございます」

「礼を言われることではない。お前は、この官舎で一番の新人であり、唯一の若い女性だ。私には、お前を守る義務がある」

「守る、って……大げさ」

「大げさではないぞ」

 返ってきた表情は、場の空気に反して、真剣な物だった。

「軍という組織は、時に人を壊す。特に、お前のように真面目な者は、自分を追い込みすぎる」

 凛子は聞きながら、黙ってパンをちぎって口に運ぶ。

「何があったのか、詳しくは聞かない。だが——無理をするな。お前が倒れたら、誰が悲しむか考えろ」

 誰が。
 この世界に、自分が倒れて、悲しんでくれる人がいるのだろうか。

 エイゼルは心配してくれそう。
 彼は最早、腐れ縁と言っても良い気がする。
 出会いこそは最悪だったが、自分の存在を認識に認めてくれているうちの一人だと思う。

 ラストゥーリャはどうだろうか。シータ家の家人達とは結構気が合っていたから、心配してくれる気がする。

 シェイルは、部下が倒れれば、それなりに、心配するかもしれない。
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