扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
食事を終え、部屋に戻ろうとした凛子に、再びカトレアが声をかけてきた。
「少し、散歩に付き合え」
「え? でも、もう暗いですよ」
「構わん。軍本部の敷地内を回るだけだ」
有無を言わさず、腕を取られ、闇に包まれていた外に出された。
王宮の灯りが遠くに見え、街の喧騒も微かに聞こえてくる。
「カトレアさん、実は何か用事があるんじゃ……」
「バレたか? 見回りだ」
カトレアはあっさり認めた。
「ついでに、お前にも見せておきたいものがある」
二人は軍本部の建物を抜け、訓練場の方へと向かった。
広い訓練場は無人で、月明かりだけが地面を照らしている。
「明日から、お前もここで訓練を受けることになる」
「――――え?」
唐突過ぎる宣言に、思わず反論口調で言ってしまう。
「でもでもでもでも、私は秘書官ですよ?」
「秘書官だからこそだ」
訓練場の中央に、女性騎士が勇ましく立った。
「お前は、閣下に随行することになる。討伐にも、視察にも。危険な場所に行くこともあるだろう」
「それは……はい」
「ならば、最低限の護身術は必要だ。それに——」
カトレアは凛子を流し見て言った。
「体を動かせば、余計なことを考えずに済むぞ」
その言葉に、凛子は思わず笑ってしまった。
「うわ、カトレアさん、お見通しですね」
「当たり前だ。私も、昔は同じような顔をしていたからな。近衛にいた頃、ある人に憧れていた。だが、その人の心は別の誰かにあった」
「カトレアさん……」
「辛かったよ。でも、私は訓練に打ち込んだんだ。剣を振るい、体を鍛え、気がついたら——その人のことを、別の形で支える立場になっていた。――憧れや恋心は、時に形を変える。お前も、いずれそうなるだろう」
「……そうでしょうか」
「ああ。だから今は、目の前の仕事に集中しろ。お前の価値は、お前自身が証明するんだ」
確信を持った言葉が、凛子の胸に響いた。
「明日から、私が訓練をつける。覚悟しておけ」
「は、はい!」
凛子は反射的に、敬礼をした。
カトレアの言う通りだ。
今は、目の前のことに集中すればいい。
仕事を覚え、訓練を受け、この世界で生きていく力をつける。
一人でも立っていけるように。