扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
 翌朝、凛子は早めに起きて訓練場に向かった。
 カトレアは既に待っていた。
 この世界の人間は総じて早起きである。

 昨晩は、少しカトレアの部屋で話し込んでしまい、深夜を大きく回ってから自室に戻ったのだが、またもや夢見が悪く、眠りが浅かった凛子は、身体を起き上がらせるのに大変苦労をした。

 というのも、この勇ましい女騎士の部屋を始めて訪問した凛子は、その部屋の様子にかなりの衝撃を受けたからだ。

 かつて凛子が暮らしていた汚部屋とはまた違う、ある種の人間を拒絶するかのようなインテリアだったのだ。

 一言で言うとごちゃごちゃしている。兎も角物が多い。

 とはいえ、片付けられていないわけではなく、所せましと並べられてあるファンシーグッズに、ついつい興味本位で質問を繰り返したところ、それらすべてがカトレアお手製だという。

 手乗りサイズの縫いぐるみも、ベッドにかけられているスプレッドも。
 窓辺に並ぶ飾り花も。

 本人曰く細かい作業をすることによって集中力を高め、また同時にそれらの作成は、彼女にとって癒しでもあるそうだ。

 裁縫なんて家庭科でしか習ったことがないものの、一応前職ではファッション雑誌に携わっていた。凛子の聞きかじった知識はカトレアの創作意欲を一層に書き立てる事となり、気が付いた時にはかぎ針を手にしており、基本の作り目作成から特訓させられていた。

「遅い」

「えーん、すみません!」

「走り込みから始めるぞ。訓練場を十周」

「じゅ、十周!?」

「文句を言うな。さあ、走れ」

 容赦ない指示に、凛子はともかく走り出した。
 朝の冷たい空気が、肺に入り込んでくる。
 体が徐々に温まり、汗が滲んでくる。

 走りながら、凛子はふと考えた。
 昼からで良いと言われたのは、今日から始まる訓練があるからだったのかもしれない――。

 なんとか、十周を走り終えた凛子は、訓練場の端で膝に手をついた。吐きそうだ。息が荒く、汗が滴り落ちる。

「休憩は三十数えるまで。その後、基本動作に入る」

 カトレアは涼しい顔で腕を組んでいる。

「さ、三十って……」

「二十九、二十八、二十七」

「ちょ、待って!」

「待たない。二十六、二十五」

 凛子は必死に呼吸を整えながら、見様見真似で身体を動かし始めた。
 体力には自信があった方だが、それは現代日本での話。
 こちらの世界に来てから、確かに歩く機会は増えたものの、こんな本格的な運動は久しぶりだ。

「十、九、八」

「ま、待ってくださ――」
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