扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
 その日の夕方、凛子はシェイルの副官であるウェントワースに呼ばれた。

「リィン殿、少しお時間よろしいかな?」

「はい、何でしょう?」

「護衛について、確認したいことがあってな」

 その言葉に、さっと目的の書類を取り出す。

「本日はエルネストさんが主となり、配置を固めます」

「ええ。それは把握しているよ」

 ウェントワースはおっとりと微笑む。

「実は、もう一名追加したい」

「え?」

「君だよ」

 凛子は目を丸くする。

「私……ですか?」

「ええ。君にも蒼月亭に定期的に顔を出してもらいたい」

「で、でも、私は秘書官で——」

「だからこそ」

 微笑んでいた男は、なんてことのないような調子で続けた。

「リィン殿、君も標的の一人。ならば、いっそのこと囮になってくれないか?」

「囮……ですか」

「もちろん、護衛は万全に」

 確かに提案は理に適っている。

「閣下は、何と?」

「まずは、君の意思を確認したくてね」

 じっと探られるように見つめられ、凛子は押し黙った。

「お願い、できるかな?」

 リゼットと会うのは、正直辛い。
 それでも、事件解決が早まるならば。その方が良いのではないだろうか。

「――もちろん、私で良ければ、協力します」

「助かるよ。では、作戦の草案を閣下と相談してみよう」

 胸の中が、複雑な感情で渦巻いていた。
 リゼットとまた顔を会わせることになるのかもしれない。自分の知らない十四年の歳月の中で、何かがあった二人。

 持て余している感情を彼方に押しやろうとしているのに。
 凛子は、気合を入れるように両手で頬を叩き「ちょっと走ってこよ」と、足を踏み出した。
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