扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
 翌朝、凛子は昨夜の走り込みの疲れが残る体を引きずって、訓練場に向かった。

「遅刻だ」

 カトレアの目線も声も、一段と冷たい。

「すみません!」

「昨夜、自主的に走り込みをしたそうだな」

「え、何で――」

「見張りの者が報告してきた」

 呆れたように首を振られる。

「馬鹿者。体を壊したら元も子もない。休息も訓練のうちだ。今日は軽めにする。基本動作の反復だけだ」

「はい……」

 カトレアに言われると、かなり堪えることに、凛子は気が付いた。
 周囲に、あまり自分を叱りつける同性が居なかったせいだろうか。

 スクワットの類であろう態勢で、何度も膝と腰を落としているうちに、またもや色々な考えは雲散して消えていった。

 朝食がおいしく胃に消えてゆく。
 精神的に悩まされることがあっても、胃腸だけは丈夫で良かったと凛子は心底思った。 

 昼前、執務室に入ると、シェイルとウェントワースが何やら話し込んでいた。

「失礼します」

 凛子の声に、二人が揃って顔を上げる。

「カミーヤ、丁度良い。こちらに来い。ウェントワースから話は聞いた」

 主語のない言葉に一瞬だけ首を傾げたが、昨日ウェントワースから提案された事案に難なく辿り着いた。

「蒼月亭への定期訪問、了承する。ただし、条件がある」

「条件、ですか?」

「護衛は常時二名。訪問時間は日没前。滞在時間は最長二刻」

 シェイルは指を折りながら続ける。

「それと、リゼットとの会話内容は全て記録を取る」

「分かりました」

「初回は今夜だ。ルーファとダリウスが同行する」

「今夜……ですか」

「問題あるか?」

「いえ、ありません」

 笑顔を作り上げ、返事をすると、シェイルの視線は凛子から外れ、ウェントワースとの会話に戻っていった。

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