扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇

 石畳の道は、昼間とは違う表情を見せていた。
 軒先に灯された燭台が、通りをほのかに照らしている。
 行き交う人々の装いも、どこか夜の街に溶け込むような色合いだ。

「リィン殿、緊張してますね」

 ルーファが優しく声をかけてくる。

「え、そんなに分かります?」

「顔に出てますよ」

 ダリウスが笑う。

「大丈夫だ。俺たちも居る」

「護衛とか、私ほんっとやったことないんで……あー、取材と思えばいけるのかな」

「取材とは?」

「んー、調書取りみたいな? お話を色々聞く感じです」

 蒼月亭の前に着くと、ちょうど扉が開いたところだった。

「あら、いらっしゃい」

 リゼットが立っている。今日は濃い紫のドレスを纏い、髪を片側に流していた。
 耳元では、小さな銀の飾りが揺れている。

「こんばんは」

 凛子は努めて明るく挨拶する。

「まあ、秘書官殿まで、わざわざ。今日はシェイル様はご一緒ではないのね」

「はい。今日は護衛の配置確認で参りました」

「軍本部のルーファです」

「ダリウスです」

「ふふ、三人揃ってとっても可愛いわね」

 リゼットは興味深そうに若き騎士を視て、凛子を見る。
 濃紺の瞳が、じっと観察しているようだった。

「それなら、色々とお話ししましょう。どうぞ、上がって」

 店内は相変わらず薄暗く、甘い香りが漂っている。
 エントランスのソファには、数名の客と女性達が寄り添っていた。
 その中の一人が、凛子達に気づいて軽く会釈する。

 階段を上がる。一階から二階へ。
 靴音が絨毯に吸い込まれていく。二階の廊下からは、グラスの触れ合う音や、低い笑い声が聞こえてきた。ルーファがここでエルネストの待機している部屋へと向かった。

 更に三階へ。
 ダリウスが扉前で待機を宣言し、個室に入ったのは凛子だけだった。
< 176 / 218 >

この作品をシェア

pagetop