2Kの君~終電帰りの限界OL、2Kの扉を開けたら異世界騎士の部屋でした

「……シャール?」

 躊躇われるが、名前を呼ばずにはいられなかった。
 凛子の声に、シェイルが頭を動かす。
 亜麻色の髪が頬にかかる。笑いを止めた青灰の瞳が眇められる。
 たった数秒交差した視線は、シェイルによって外された。
 ぽつり、ぽつりと言葉が落ちる。

「二つ上の兄、が居るんだ。……同い年の弟、と……妹が……十四歳も歳が離れていると、あまり妹と云う実感はないが。それから父と、母」

「五人家族だね」

「家族……そうだな五人。――一人暮らしをしていると言っていたがリィンは?」

「四人家族。九歳上のお兄ちゃんがいる。血は繋がっていないんだけどね」

「血が繋がっていない?」

「うん、うちの両親って再婚カップルだからさ。わたしは父親の連れ子で、お兄ちゃんは義母さんの連れ子なの。わたしが五歳の時だったからあんまり覚えてないんだけど。普通に仲良いよ」

「……そうか」

「兄弟仲悪いの?」

「いや……どちらかと言うと良い、と思う」

 随分と歯切れの悪い言い回しだ。

「俺も、兄弟と母が違う。妹もだな」

「やっぱり再婚カップル?」

 シェイルは首を横に振る。

「父には三人の妻が居るんだ。兄弟の母親になった人。妹の母親になった人。それから俺の母親」

「あ! もしかしてシャールのところって一夫多妻?」

「そうだな……が、兄と弟の母も俺の母も亡くなって久しいし。今は妹の母が、父の妻になる。ああ、彼女はリィンと同い年だ」

「……えーっと、複雑な家庭環境だったり……」

 遠慮がちな凛子の口調に、シェイルが「そうだな」と、漸く小さな笑みを漏らし、話は終わりだ、といった風に、シェイルは背中を壁に預ける。
 結局、話を有耶無耶にされてしまったような気がして、凛子は会話を遡る。

「ううん、二十六歳のお義母さんかぁ……」

 自分と同じ年で、シェイルの様な子供の母親になるのは、どんな気分なのだろう。まったく想像ができない。

「子が欲しいのか?」

「もう、なんでそうなるかな。想像つかないなーって。そっちじゃ皆早いの? 出産。っていうかその前に結婚か」

「農村部では十代半ばで結婚したりもする。確か俺の父親は二十二の年に結婚したんだったと思う」

「平均的に早そうな気がする。二十二って事はシャールもそろそろお嫁さん探しなのか」

「いや、俺は……しないさ」

「へ?」

「一生するつもりはない」

「……そーなの?」

 ああ、と再び握り締められた拳に、凛子はそれ以上問うのをやめた。
 踏み込むな、と言われた気がしたからだ。

 代わりに頭をぽんぽんと撫でる。
 シェイルは一瞬だけ驚いたように睫毛を震わせたが、されるがままで、やがて目を閉じ身を横たえた。
 寝付いたのかは判らない。
 少しだけ、長めに頭を撫で、凛子も自分の布団にもぐりこんだ。
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