2Kの君~終電帰りの限界OL、2Kの扉を開けたら異世界騎士の部屋でした
◇ 

「楽しいか?」

「うん、綺麗だし。他にすることないし」

「あるだろ、掃除」

「観測史上初って言って良いくらい片付いているから良いの」

「なんだそれ」

「こっちの話ー。動かさないでよ」

 両手で頭を挟んで前を向かせると、集中できないという台詞が返ってきた。
 シェイルは編みこまれた何本もの三つ編みを解す。

「男の髪は、編まない」

「そういう決まり?」

「そんな決まりは無い」

「機嫌悪いなあ」

「夢見が悪かったんだ」

 反対に背中に回られ、髪を一つに纏めていたコンコルドピンを取られる。

「汚いよ、洗ってないんだから」

「それを言うなら俺のも同じだろう」

 手櫛で髪を梳かれると、気持ちが良い。昼食を食べたばかりという事もあり、途端に眠気が押し寄せてくる。傾いだ体は重力のまま後ろに倒れこんだ。

「しつれいしました」

「食べて直ぐ寝ると太るぞ」

 言いながらも髪を梳く手は止まらない。

「似ているな……」

「何が?」

 身を捩ろうとすると「動かすな」と同じ台詞が返ってきた。
 正面をむいた視界に写るのは、暖炉の炎。
 フライパンが横に転がっている。この部屋に似つかわしくない段ボール箱の中にあるのは、かき集めた食材だ。
 残っているのはスナック菓子とビールとワイン。

「昔懐いていた犬も、首の辺りを掻いてやると満足そうにしていた」

「犬! 似ているって――」

「動かすなと言っただろう」

 最後まで言うことを許されず、がっちりと頭を抑えられる。
 シェイルに完全に寄りかかっている体制だ。
 硬い筋肉が、凛子の体を支えている。
 膝枕ならぬ人間座椅子。
 憮然として頬を膨らませると「子供だな」と小突かれた。

 ああ、でも。

「良いな。シャールみたいな弟が居たら」

「……弟?」

「わたし妹だし。自分より下に弟か妹欲しかったな」

 ちょっと生意気で、軽い口喧嘩出来る相手。
 凛子は義兄に懐いていたが、年齢が離れすぎていた所為か、兄妹喧嘩をした記憶が無い。

「……リィンみたいな姉は要らない」
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