扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇

 蒼月亭への定期訪問が始まって五日が経った。
 凛子は隔日で、リゼットの元を訪れている。
 表向きは情報収集。実際は、囮としての役割だ。

「今日はどんなお話を聞かせてくれるの?」

 煙管を片手に、凛子を流し見る仕草は、蠱惑的だ。

「えっと、最近変わったお客さんは?」

「相変わらず、質問が直接的ね。ついでだから、もう少し、駆け引きの練習もなさい」

「いやー、でもこれは業務ですし。駆け引きするなら相手側とですよね、私もリゼットさんも一応、おとりという立ち位置同じなので」

 凛子は、はきはきとした口調で首を傾げる。

 リゼットは、この何日かで、凛子の精神力の強さに、驚かされていた。
 彼女から、どこか探るような、穿ったような、迷うような感情が見えていたのは、二回目の訪問時までだった。それ以降は、淡々と、あくまでも業務として割り切っているように見える。

 数多の思惑が張り巡らされている娼館という場を、仮初の住処としているリゼットからすると、何となく物足りなさも感じる。シェイルにも同様な感想を述べることが出来ることに気が付き、諦めたように煙管の灰を落とした。

「一つ気になることがあるの」

「何ですか?」

「昨夜、また例の男が来たわ」

「黒髪の女を探してる!?」

 凛子は身を乗り出す。

「ええ。でも今回は、もっと具体的だった」

 未だに勿体つけて言おうとしている自分に、軽く苦笑し続けた。

「王宮に出入りしている女、って言ってたわ」

「それって……」

「おそらく、貴女のことよ」

 リゼットが声を潜め、凛子に顔を近づける。

「その男、今夜また来るかもしれないって言ってた」

「今夜!?」

「ええ。だから、今日は早めに報告した方がいいわ」

「分かりました。すぐに報告します」

「気をつけてね」

 リゼットは凛子の手を取る。

「貴女、意外とあの人たち……あの人の、大切な人みたいだから」

「え?」

「シェイル様がね、貴女のことを心配してるのよ」

 リゼットは意味深に笑う。

「最初にこのお部屋で二刻過ごした日の事、私、叱られたのよ」

「あ……私も怒られましたよ……何で呑気に風呂に入ってるんだって」

「ふふふ。さあ、早く戻りなさい」

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