扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
軍本部の医務室で、凛子は首の傷の手当てを受けていた。
「傷は残りませんよ。閣下が近くに居たのは幸運でしたね」
医務官が、擦りむいた手足に薬を塗りこみながら言った。
「はい……良かったです」
手当てされている自分の膝小僧を胡乱に見つめながら、凛子は疲れたように答えた。
魔術による治癒。
以前、ラストゥーリャから教示して貰った内容によると、ぱっくりと裂けた筋肉などを短時間で繋ぎなおす治癒は、高度な技術と高い魔力値が必要とのことだった。無論、刀傷などでも、そこまで深くない場合は物理的に縫い直す事が可能で、時間はかかるがいずれは治癒する。
しかし失われた血を戻すという技は魔術でも存在せず、貧血にも似た感覚に、頭がくらくらしていた。
医務室の外では、シェイルが壁に背を預けて立っていた。
腕を組み、難しい顔をしている。
「閣下」
ウェントワースが近づいてくる。
「行方は?」
「申し訳ありません、星霜通りの路地に入ったところで、姿が消えてしまった」
「転移魔術か」
「おそらく。移動しながら行使していたとのこと。かなりの使い手です」
「だが、顔は見たな? 術師の協力が欲しい」
「叡智の塔主は、陣の書き換えに専念されておりますし、適任者が……少し当たってみましょう」
医務室の扉が開き、凛子が出てきた。
「お待たせしました」
「歩けるか?」
「はい、大丈夫です」
凛子は首に巻かれた包帯に触れる。
「ご心配をおかけしました」
「……まあ、想像より動いていたな」
シェイルはゆっくりとした足取りで歩き出す。
「訓練の成果が出ている。カトレアに礼を言っておけ」
「はい」
深夜の外宮は静かで、足音だけが響く。
「カミーヤ。今夜のことを、報告書にまとめろ」
「分かりました」
「それから――しばらく、蒼月亭への訪問は中止だ」
「え?」
「犯人に顔を覚えられた。危険すぎる」
シェイルは足を止めると凛子を視線で捉えた。
「お前の身の安全が最優先だ」
「でも、それでは囮の意味が……」
「別の方法を考える。今回の事ではっきりと判った。狙いはやはり、お前だろう」
シェイルの声は、有無を言わさぬ強さがあった。
「今は、お前を守ることが先決だ」
「……ありがとうございます」
「礼を言うな。当然のことだ」
「傷は残りませんよ。閣下が近くに居たのは幸運でしたね」
医務官が、擦りむいた手足に薬を塗りこみながら言った。
「はい……良かったです」
手当てされている自分の膝小僧を胡乱に見つめながら、凛子は疲れたように答えた。
魔術による治癒。
以前、ラストゥーリャから教示して貰った内容によると、ぱっくりと裂けた筋肉などを短時間で繋ぎなおす治癒は、高度な技術と高い魔力値が必要とのことだった。無論、刀傷などでも、そこまで深くない場合は物理的に縫い直す事が可能で、時間はかかるがいずれは治癒する。
しかし失われた血を戻すという技は魔術でも存在せず、貧血にも似た感覚に、頭がくらくらしていた。
医務室の外では、シェイルが壁に背を預けて立っていた。
腕を組み、難しい顔をしている。
「閣下」
ウェントワースが近づいてくる。
「行方は?」
「申し訳ありません、星霜通りの路地に入ったところで、姿が消えてしまった」
「転移魔術か」
「おそらく。移動しながら行使していたとのこと。かなりの使い手です」
「だが、顔は見たな? 術師の協力が欲しい」
「叡智の塔主は、陣の書き換えに専念されておりますし、適任者が……少し当たってみましょう」
医務室の扉が開き、凛子が出てきた。
「お待たせしました」
「歩けるか?」
「はい、大丈夫です」
凛子は首に巻かれた包帯に触れる。
「ご心配をおかけしました」
「……まあ、想像より動いていたな」
シェイルはゆっくりとした足取りで歩き出す。
「訓練の成果が出ている。カトレアに礼を言っておけ」
「はい」
深夜の外宮は静かで、足音だけが響く。
「カミーヤ。今夜のことを、報告書にまとめろ」
「分かりました」
「それから――しばらく、蒼月亭への訪問は中止だ」
「え?」
「犯人に顔を覚えられた。危険すぎる」
シェイルは足を止めると凛子を視線で捉えた。
「お前の身の安全が最優先だ」
「でも、それでは囮の意味が……」
「別の方法を考える。今回の事ではっきりと判った。狙いはやはり、お前だろう」
シェイルの声は、有無を言わさぬ強さがあった。
「今は、お前を守ることが先決だ」
「……ありがとうございます」
「礼を言うな。当然のことだ」