2Kの君~終電帰りの限界OL、2Kの扉を開けたら異世界騎士の部屋でした
「わぁ、爽やかに言われるとむかつく」

「そうか?」

 覗き込む瞳は、してやったりといった風に笑みを滲ませる。

「これ以上兄弟が増えるとややこしくなる」

 無骨な指が、濃茶の毛先を弄ぶ。一束そっと掴むと「綺麗な色だな」と呟いた。

「染めているけどね。元々真っ黒」

「黒いのか、ラストゥーリャが喜びそうだな」

「扉の人が?」

「あいつの色だから」

 捻られた束が開放されると、はらはらと首元にかかりくすぐったい。
 同じ動きをなんどか繰り返し、シェイルは己の手の中にある髪の毛に唇を寄せる。

 特別甘い雰囲気だった訳ではない。

 凛子にしてみれば、体温がすぐそこに在る事で、この切り取られた空間に一人ぼっちで閉じ込められたのでは無いと実感できていたし、シェイルもまた、膝に在る暖かな物に郷愁の念を覚えつつも、届きようも無い距離を脳裏から消し去るために、つらつらと思いつくままの言葉を零していただけだ。

 伏せられた瞳を飾る睫の長さに気がつき、凛子はあんぐりと口をあけ固まった。
 顎が外れそうだ。

「……はじめて、見た」

 沈黙を破る声に、シェイルは僅か首を傾げ、視線を受け止める。
 囚われていた凛子の髪が大きな掌からはらはら落ちる。

「自然に、そういう事する人。うわあうわあ」

 責めているのでは無く、映画のワンシーンを飾る優雅な動きが、すぐ目の前で行われていると言う現実を直視し、若干ひいている。

「そういう事?」

「髪にキス。居るんだー居るんだー、そういう人。もしかしてそっちでは普通?」

 正答を待つ凛子の、引き攣らせた頬にまつわる濃茶の髪をシェイルは親指で払う。

「普通はしない」

 その言葉に「じゃあ趣味?」と好奇心を含む問いを返され、目じりを細めた。
 凛子の髪の中に手を差し入れると、指先が細い首筋に触れる。

「するなら、唇の方がいいだろう」
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