扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇

「これはゼイレンですね」

 ラストゥーリャは地図の一点を指先で叩いた。シェイルが凛子に渡した魔道具の銀環は、ラストゥーリャが主に制作したものである。己の魔力の行方を探り、辿り着いた地点は治外法権の闇も渦巻く、自由都市。

「向かいますか?」

 エイゼルが問う。
 傍らには、ミアリエルが腕を組み、眉をつり上げている。

「もちろんよ! 放っておけるわけないじゃない!」

「……ミアリエル様」

 ラストゥーリャはわずかに息を吐いた。

 街で捕獲したミアリエルを伴って戻ったエイゼルは、このお転婆姫君をどのように秘密裏に奥宮に戻そうかと思い悩んみながら、叡智の塔まで連れてきてしまったのだが、運悪く、ローワンのもたらした凛子誘拐の報告を、耳にされてしまった。

 そしてミアリエルは、かつて多少の縁を持った同士たる凛子は、完全に自国にへと帰国したと思っていたのにも関わらず、アゼリアスに未だ存在している謎、および、自分に対してはなんの知らせもされなかった事に拗ね、叡智の塔に居座っている。そして成人王族である自分にも、責務として関わる必要性を滔々と語り、ラストゥーリャの頭を二重に悩ませていた。

「正式な軍は動かせない。外交問題になる。だから――」

「そういう場合は、お忍び作戦ね!!」

 得意そうに胸を張る、若き姫君の言葉に、ラストゥーリャは頭痛を押さえるように眉間をつまんだ。

「……端的に言えば、そうです。ただし」

「ただし?」

「姫君が加わる予定は、一切ありません」

「今はあるでしょう? ほら、いま私、ここに居るもの!」

 きらり、と勝ち誇った笑み。
 エイゼルが天を仰ぎ、ラストゥーリャは肩を落とす。

「……本当に、どうしてこうなるのでしょう」

「状況は一刻を争います、どうしましょう」

 エイゼルが表情を引き締めた。

「ミアリエル様を奥宮にこっそりお戻しした方が」

「待って! 今戻ったら、蜂の巣を突いた大騒ぎになって、特にエイゼルなんてこってり絞られて、経典何カ月も書き写すお仕置きされるわよ!」

「なんで、俺が!」

「形代置いてきてるから絶対にバレない自信あるの。エマウお休みだし! それに……リィンは私のお友達よ。ほっとけない」

 ミアリエルは翻る金の髪を指先でかき上げ、翡翠の瞳を猫のように細めた。

「それに、私の魔力使った方が早いと思うわ――奥宮の隔離結界を破った人なんて、後にも先にもいないでしょう? 長距離転移は不得意だけど、魔力量は多いから便利よ」

 その言葉に、ラストゥーリャは僅かに目を見開き、短く息を吐いて諦めた。

「……承知しました。ただし、警護の増員は最優先します。御身に何かあれば、我々の立場も危うい」

「わかってるわ。私は足手まといにならない自信があるもの」

 すでに充分、頭痛の種なのですが……と、喉まで出かかった本音を飲み込み、ラストゥーリャは声を張り上げた。

「追跡地点は、ゼイレン旧市街区。治安としては最悪の、地下商会の巣窟です。準備を整え次第、出発します――可能な限り、秘密裏に、迅速に」

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