扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
 封印の地は、想像以上に荒涼としていた。
 吹き荒れる雪嵐の中、シェイルは部隊を率いて険しい山道を進んでいた。
 視界は白に塗り潰され、足元は凍てついた崖道。
 一歩の誤りが即、死に直結する。

「閣下、前方に――」

 斥候の指し示す先、雪の帳を割って姿を現すのは、巨大な石造りの楼門。
 古代の神殿。建国以前の遺構にして、王国最大の禁忌。ここが封印の地。

「全軍、警戒態勢を維持」

 短い命令が、緊張に満ちた部隊へ波紋のように広がる。
 魔術師隊が索敵術式を展開――しかし。

「……反応、無し?」

 ウェントワースの声には、戸惑いが滲んでいた。

「魔物どころか……生き物の気配すら希薄です」

 静かすぎる。
 本来なら、この周辺には封印の影響で魔が溢れているはずだ。
 まるで――何者かが掃除した後のように。

「罠、でしょうか」

 カトレアが剣に手を掛ける。

「可能性は高い」

 シェイルは前を見据えたまま応じた。

「だが確かめねば前へ進めん」

 神殿の入口は厚い氷に塞がれていた。
 魔術が解かれ、鈍い音を響かせ扉が開く。

「灯りを」

 光の術式が空間を満たし、苔むした壁面の古代文字が浮かび上がる。
 床一面に刻まれた魔法陣は、未だ刃を研ぐように光を潜め、そして最奥に、巨石で組まれた威圧的な石棺が坐していた。
 封印の核は、恐らくそこだ。

「封印の状態を確認」

 魔術師たちが術式を展開し、祈るように解析を進める。
 数分の沈黙の後、解析役の魔術師の困惑気味の声が落ちた。

「封印は……恐らく、補強されています。しかも最近かと」

「補強……?」

 ウェントワースが呻くように呟いた。

「魔物の活性化は、確かに薄まっている」

「だが、王都周辺では異常が起きている」

 シェイルは眉根を寄せる。
 嫌な予感が、雪より冷たく背を撫でた。

「敵の狙いは封印そのものではない……?」

 石棺を映す双眸が、剣呑そうに細まる。

「ならば――何を起こすために、王都を混乱させたのだ」

 外の雪嵐が彼らの中に這い上がる言い知れぬ不安に呼応するように、強まっていた。

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