扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇

 大理石の回廊を、急ぎ足の三人と、増援として選抜された影の護衛数名が進む。
 ミアリエルはその中心で、ひどく楽しそうに息を弾ませていた。

「旧市街区なら……地下水路を通った方が早いわね! たぶん、もちろん行ったこと無いから想像だけど」

「地下水路……」

 エイゼルが露骨に顔をしかめる。

「治安が悪いと聞いています。魔獣の棲みついた区画も存在するはず」

「だからこそ、お忍びにはぴったりじゃない。障害なんて全部まとめて沈めてあげるから安心して」

 ぱちんと指を鳴らす。
 床下の石が低く唸り、微かな振動が走った。

 ラストゥーリャは無言で額に手を当てる。

「くれぐれも、制御をお願いします。目立てば――秘密裏の意味がありません」

「わかってるわ。目立たず、暴れるのが一番でしょ?」

「相反しているんですが」

 しかし、三人の足は止まらない。
 ラストゥーリャの拵えた長距離転移陣の魔方陣が展開され、強い光が視界を奪うと、湿った土の臭いと、ひんやりした闇の気配に捕らわれる。

 ゼイレン旧市街の外れ、封鎖された地下水路の一角へと転移は完了した。

「ここからは――慎重に行きましょう」

 ラストゥーリャが低く告げる。

「もちろん、慎重にね!」

 ミアリエルは満面の笑みで答えた。

 石壁の奥から、くぐもったうなり声。
 泥濘の中、甲殻を纏った魔物の影がうごめく。

「来たわ! 任せて!」

 彼女が片手を掲げた瞬間に、水路の石畳が隆起し、地を割り、土塊が牙を剥く獣の如く伸び、魔獣を丸ごと呑み込んだ。

「…………」

 エイゼルはわずかに後退りする。

「目立たず……?」

 ラストゥーリャは頭痛を堪えるように呟いた。

「まだ静かにやった方よ? ほら、急ぎましょ!」

 誰よりも先に、ミアリエルは地下の闇へと駆け出す。
 二人と護衛たちは、慌ててそれを追った。
 しかし、間髪置かず、地鳴りが響いた。

「次、あっちでしょ! 道が無いなら、作ればいいと思うの」

 ミアリエルが土塊ごと壁を粉砕し、新たな経路を強制的に切り拓く。

「静かに、と申し上げたはずですが!!」

 ラストゥーリャの悲鳴が虚しく響く。

「音は地下水路が勝手に反響させてるんだもの。私は悪くないわ!」

「充分に悪いです!」

 エイゼルは既に諦めの境地に至り、黙って短剣を抜いた。

 彼らは、銀環の発する魔力の残滓を追い、一直線に迫っていた。

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