扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇

 ラストゥーリャは山の中腹の先にある大神殿へと向かっていた。
 長い階段を上り、扉を叩く。

「大司祭ディエル猊下にお会いしたい。私は天文院長官、ラストゥーリャ・ウル・ハルス・シータです」

「少々お待ちください」

 聖官の若者は奥へと消え、しばらくして、リアス聖教会の主である男が現れた。

「やあトゥーリャ珍しい。君から来てくれるなんて……シェイルに何かあったのかな?」

 真っ先にその名を口にする。
 ラストゥーリャの胸が僅かに刺さる。

「サーシャ殿から、書簡が届いたので」

「ああ……」

 ディエルは薄く笑み、ラストゥーリャに椅子を進めた。
 片手をあげると、奥に合図をする。
 運ばれてきた茶は、酷く甘い香りがした。

「で、何だって?」

「聖王庁本山。つまり貴方からは、何の指示も来ていないと」

「ふむ」

「ここに来る前、マリセル殿の所にも顔を出しましたが、彼も何も知らされていないようでした」

 淡々と事実を述べるだけの黒き賢者に、ディエルは詰まらなそうに肩を竦める。

「何も言っていないからね」

「それは、何故……聖教会からはいかなる仲裁も出さないという事でしょうか?」

「おや、忘れちゃったのかな?」

 ディエルはいっそ楽し気に嗤った。

「政治と宗教。我が国はそれぞれの独立性を重んじているのではなかったっけ。つまり僕たちの立場としては、政治に不当に介入するなんて、出来ないんだよ」

 ラストゥーリャは慎重に言葉を選ぶ。

「しかし、今回の件に関しては、トゥリローゼ救援を主として」

「詭弁だな。しかも他国への不要な介入じゃないか。そんな事をして本当に、アゼリアスの民が一人も傷つかないでいられるという保証はあるのだろうか? それに、イズラルにはリアス聖教会は無い」

「聖王の願いだとしても、という事でしょうか」

「トゥーリャ。あのね、戦いが何を産むか、知っているかな? 戦えば血が流れる。血が流れれば、何を求める? 人々はきっと祈りを求めるだろう。我々聖職者は、天の摂理に従うしかない」

 苦し気に眉を潜め、天を仰いだディエルは苦悩に満ちている聖職者の鏡のようだ。
 ゆっくりと目を開けた彼の瞳には静謐な静けさだけに満ちているようにも見える。

「秩序が壊れれば、新しい信仰の在り方が生まれるかもしれないね。聖王は大司祭を任命する、だがしかし、大司祭もまた聖王を導いている」

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