2Kの君~終電帰りの限界OL、2Kの扉を開けたら異世界騎士の部屋でした
幕間
「或る日の会話」
「あれは藁束を煩悩に見立てて打ち払ってるんだな」
「額に浮かぶ汗は青春そのものだね、ふふふ」
執務室の窓から、奥庭を見下ろしくつくつと笑いあう二人の男に、この部屋の主、ラストゥーリャ・ハルス・ウル・シータ――その漆黒に流れる黒髪を由来とした二つ名をして、黒き賢者と言う――「貴方がたは邪魔をしに来たのですか!」と青筋を立てたが、すぐさま後悔した。
アゼリアス聖王国は、リアス神を唯一神として祀るリアス聖教を国教と定める、緑豊かな古き王国である。
大陸の北東に位置し、東を蒼海、北と西は大陸を縦断するゼリアス山脈を国境とし、唯一南国境線に面しているのが、商人達の特別自由都市ゼイレン。ゼイレンの向こうには中堅国で牧歌的な大地が広がるトゥリローゼ王国が控えている。
近年、両国の関係は極めて良好。
鉱物資源豊富なアゼリアスと、農業を主たる産業とするトゥリローゼは、貿易面でも交流が盛んだ。
またこの大陸に住まう多くの民が信仰しているリアス聖教の聖地は、アゼリアス聖王国の北壁、ゼリアス山頂に位置している為、ひとびとは、アゼリアス王国を神に抱かれた聖なる庭と敬意を込めて呼ぶ。
立太子を望まれていたアゼリアス王国第二王子が、突然の失踪から帰ってきたのは一月ほど前になる。
繊細な時期に二月も行方を晦ませていたのだが、当事者は完全黙秘を貫いていた。
これは緘口令がしかれている話だが、行方不明者は彼を含め三名にのぼる。
跡継ぎ騒動の中心に祭り上げられそうになっていた第一王子、第三王子もまた同様に行方不明となっていたのだ。
時刻こそはずれていたが、三人がひょっこりと戻ってきたのは同じ日であった。
第一王子は
「あまりの寒さに南下する隊商に紛れ込み、大陸の最南端に位置するエジンドレラス皇国のさらに南にある、星珊瑚諸島の名も無き無人島で、ついうっかり昼寝をしすぎた」らしく、
第三王子は
「更なる高みを目指そうと、神々の声を聞くために、アゼリアス山頂付近で瞑想していたが、突然の吹雪で迷子になって渓谷へ落ち一時的に記憶を失ってしまい、気がついた時には名も知らぬ寒村でベレーの乳を搾っていた」らしく、
忠臣たちは嘘くせー……と内心で思ったものの、追求する事も叶わず、結局真相は不明だ。
彼らの父王は、三人の王位継承権をまるっと剥奪し「生まれたばかりの第一王女を皇太子に据える!」と、大激怒したが、正妃となったばかりの新妻に「稚けなき赤子にそのような重責を……だいたい陛下は女性の方に少々だらしが無いから……よよよ」と嘘泣きされ、三人の王子達は王族だけが罹る謎の流感で生死の境を彷徨っていた、というかなり苦しい言い訳を口にしなければいけなかった。
「額に浮かぶ汗は青春そのものだね、ふふふ」
執務室の窓から、奥庭を見下ろしくつくつと笑いあう二人の男に、この部屋の主、ラストゥーリャ・ハルス・ウル・シータ――その漆黒に流れる黒髪を由来とした二つ名をして、黒き賢者と言う――「貴方がたは邪魔をしに来たのですか!」と青筋を立てたが、すぐさま後悔した。
アゼリアス聖王国は、リアス神を唯一神として祀るリアス聖教を国教と定める、緑豊かな古き王国である。
大陸の北東に位置し、東を蒼海、北と西は大陸を縦断するゼリアス山脈を国境とし、唯一南国境線に面しているのが、商人達の特別自由都市ゼイレン。ゼイレンの向こうには中堅国で牧歌的な大地が広がるトゥリローゼ王国が控えている。
近年、両国の関係は極めて良好。
鉱物資源豊富なアゼリアスと、農業を主たる産業とするトゥリローゼは、貿易面でも交流が盛んだ。
またこの大陸に住まう多くの民が信仰しているリアス聖教の聖地は、アゼリアス聖王国の北壁、ゼリアス山頂に位置している為、ひとびとは、アゼリアス王国を神に抱かれた聖なる庭と敬意を込めて呼ぶ。
立太子を望まれていたアゼリアス王国第二王子が、突然の失踪から帰ってきたのは一月ほど前になる。
繊細な時期に二月も行方を晦ませていたのだが、当事者は完全黙秘を貫いていた。
これは緘口令がしかれている話だが、行方不明者は彼を含め三名にのぼる。
跡継ぎ騒動の中心に祭り上げられそうになっていた第一王子、第三王子もまた同様に行方不明となっていたのだ。
時刻こそはずれていたが、三人がひょっこりと戻ってきたのは同じ日であった。
第一王子は
「あまりの寒さに南下する隊商に紛れ込み、大陸の最南端に位置するエジンドレラス皇国のさらに南にある、星珊瑚諸島の名も無き無人島で、ついうっかり昼寝をしすぎた」らしく、
第三王子は
「更なる高みを目指そうと、神々の声を聞くために、アゼリアス山頂付近で瞑想していたが、突然の吹雪で迷子になって渓谷へ落ち一時的に記憶を失ってしまい、気がついた時には名も知らぬ寒村でベレーの乳を搾っていた」らしく、
忠臣たちは嘘くせー……と内心で思ったものの、追求する事も叶わず、結局真相は不明だ。
彼らの父王は、三人の王位継承権をまるっと剥奪し「生まれたばかりの第一王女を皇太子に据える!」と、大激怒したが、正妃となったばかりの新妻に「稚けなき赤子にそのような重責を……だいたい陛下は女性の方に少々だらしが無いから……よよよ」と嘘泣きされ、三人の王子達は王族だけが罹る謎の流感で生死の境を彷徨っていた、というかなり苦しい言い訳を口にしなければいけなかった。