扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
こういう場合、はぐれた場所から動かないのが定石だ。遠方にいる誰かと通信する手段が無いのだから。ニルが故意に凛子を置き去りにしたとは考えたくない。自分が迂闊だったのだ。相手はまだ子供で、この区画に入り込んだ後も、果実水やら練り飴やらを嬉々として買い、それらはすべて凛子の分――つまりきっちり二人分購入していた。
練り飴をどうにか胃に収めた後、ハムの挟まった白パンを渡され、流石に「オナカいッパい」と降参した。
新鮮な空気を求め少し背伸びをすると、空に向かう尖塔が視界に入る。いくら人が多いとは云え、街の規模は凛子の記憶にあるどの街よりもまだ小さい。だから大丈夫だよねと、言い聞かせるよう前を見据える。最悪でも、学舎へ向かえばどうにかなるだろう。一番最初に外側から案内された教会に隣接する修復中の建物。
どうにか露天市から抜け出すと、どっと疲れが出た。
見知らぬ街での一人歩き。いや、見知らぬ世界での一人歩きか。
目印の教会は正面にある。幅の広い道は、先ほども歩いた目抜き通りだ。ニルと買い物をした店の看板を確認し、通り過ぎ、その先にちらりと見えた青錆色に凛子の頭は瞬間的に沸騰した。
癖毛風の髪。すらりと伸びた背筋はすいすいと難なく人波を行く。その色を見失いそうになって、凛子は止まりかけた足を必死に動かす。
――エイゼル!
逆恨みのようにその後姿を睨み付ける。とっつかまえて、荷物を返してもらわねば。ついでに一回くらい殴ってもいいだろうか。物騒なことを考えながら、追いかける。都会を歩きなれているはずなのに、なかなか前に進めない。
剣呑な表情で通りを早歩きしていた凛子を、たまたま街の警備にあたっていた騎士団の青年が訝しげに見やる。同僚達に何かを耳打ちし、細波のように静かに、けれども確実に任務が伝わっていく。
「お嬢さん」
不意に進行を邪魔された。
反射的に睨みあげると、難しい顔をした青年に覗き込まれた。
「ナニ?」
「どちらへ行くのか?」
「はぁ?」
っていうか邪魔しないでくれないかな!
窃盗犯追いかけてるの!
だがしかし、取るべき態度が間違っていたのか、瞬く間のうちに凛子は、群青の制服を身に着けた青年達に取り囲まれていた。
練り飴をどうにか胃に収めた後、ハムの挟まった白パンを渡され、流石に「オナカいッパい」と降参した。
新鮮な空気を求め少し背伸びをすると、空に向かう尖塔が視界に入る。いくら人が多いとは云え、街の規模は凛子の記憶にあるどの街よりもまだ小さい。だから大丈夫だよねと、言い聞かせるよう前を見据える。最悪でも、学舎へ向かえばどうにかなるだろう。一番最初に外側から案内された教会に隣接する修復中の建物。
どうにか露天市から抜け出すと、どっと疲れが出た。
見知らぬ街での一人歩き。いや、見知らぬ世界での一人歩きか。
目印の教会は正面にある。幅の広い道は、先ほども歩いた目抜き通りだ。ニルと買い物をした店の看板を確認し、通り過ぎ、その先にちらりと見えた青錆色に凛子の頭は瞬間的に沸騰した。
癖毛風の髪。すらりと伸びた背筋はすいすいと難なく人波を行く。その色を見失いそうになって、凛子は止まりかけた足を必死に動かす。
――エイゼル!
逆恨みのようにその後姿を睨み付ける。とっつかまえて、荷物を返してもらわねば。ついでに一回くらい殴ってもいいだろうか。物騒なことを考えながら、追いかける。都会を歩きなれているはずなのに、なかなか前に進めない。
剣呑な表情で通りを早歩きしていた凛子を、たまたま街の警備にあたっていた騎士団の青年が訝しげに見やる。同僚達に何かを耳打ちし、細波のように静かに、けれども確実に任務が伝わっていく。
「お嬢さん」
不意に進行を邪魔された。
反射的に睨みあげると、難しい顔をした青年に覗き込まれた。
「ナニ?」
「どちらへ行くのか?」
「はぁ?」
っていうか邪魔しないでくれないかな!
窃盗犯追いかけてるの!
だがしかし、取るべき態度が間違っていたのか、瞬く間のうちに凛子は、群青の制服を身に着けた青年達に取り囲まれていた。