扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇
確かに今すぐどうにかなる問題じゃなかった。
寒い、冷たい。――痛い。
凛子は、横倒しになった視界で胡乱に今朝の言葉を反芻する。
石を積み上げられてできた壁面はしっとりと濡れていて、どこかから水が漏れているのだろうか。ぴちょんぴちょんと、規則的な音を空間に落とす。高い位置に一つある窓は掌サイズで、通気口だろう。凛子に恐怖と諦観を認識させているのは、この暗い空間唯一の出入り口が、太い鉄格子で出来ている事。
その先の通路は闇で今は何の気配も無い。
人間不信になりそうだ。
つい先ほどまでどちらかというと、お気楽に異世界なる場所を彷徨ってきたが、御伽噺のようにうまく話がいくわけもなく。否、童話のように結末は残酷であるべきなのかもしれない。
重たい金属製の手枷で拘束された腕をみやり、ここ数日こなしてきた家事仕事や乳搾りといった肉体労働で、一つずつはがれていったジェルネイルの最後の一つが、地爪ごとはがれているのを確認した途端、凛子は痛みを思い出し顔を顰めた。
思い切り突き飛ばされた際に足首を捻ったのか、立ち上がろうと試みた瞬間に格子に背を向けるように転がり、それきり横たわったままだ。何かをしようとする気力がわいてこない。隔絶された空間はこれほどまで安易に絶望を人に与えるものなのか。
元々課せられた使命があるわけでもないし、好き好んでここに来た訳じゃない。
ただ、偶々、自分は自分の知っている世界以外にも、所謂並行世界らしきものの存在があるという事を知っていた。そしてここが、以前、凛子の現実として現れた異世界の存在である彼の世界であるという事を知った。
ああ、あの時の隔絶された空間は、それでも――
居心地が良かった。
生理的なものか、感情的なものなのか、頬を伝う雫に苦笑して、凛子は思考することを放棄する。
やがて、精神的疲労と肉体的疲労によって、意識が沈みゆく。
その抗いようも無い誘惑に、凛子は身を委ねた。
確かに今すぐどうにかなる問題じゃなかった。
寒い、冷たい。――痛い。
凛子は、横倒しになった視界で胡乱に今朝の言葉を反芻する。
石を積み上げられてできた壁面はしっとりと濡れていて、どこかから水が漏れているのだろうか。ぴちょんぴちょんと、規則的な音を空間に落とす。高い位置に一つある窓は掌サイズで、通気口だろう。凛子に恐怖と諦観を認識させているのは、この暗い空間唯一の出入り口が、太い鉄格子で出来ている事。
その先の通路は闇で今は何の気配も無い。
人間不信になりそうだ。
つい先ほどまでどちらかというと、お気楽に異世界なる場所を彷徨ってきたが、御伽噺のようにうまく話がいくわけもなく。否、童話のように結末は残酷であるべきなのかもしれない。
重たい金属製の手枷で拘束された腕をみやり、ここ数日こなしてきた家事仕事や乳搾りといった肉体労働で、一つずつはがれていったジェルネイルの最後の一つが、地爪ごとはがれているのを確認した途端、凛子は痛みを思い出し顔を顰めた。
思い切り突き飛ばされた際に足首を捻ったのか、立ち上がろうと試みた瞬間に格子に背を向けるように転がり、それきり横たわったままだ。何かをしようとする気力がわいてこない。隔絶された空間はこれほどまで安易に絶望を人に与えるものなのか。
元々課せられた使命があるわけでもないし、好き好んでここに来た訳じゃない。
ただ、偶々、自分は自分の知っている世界以外にも、所謂並行世界らしきものの存在があるという事を知っていた。そしてここが、以前、凛子の現実として現れた異世界の存在である彼の世界であるという事を知った。
ああ、あの時の隔絶された空間は、それでも――
居心地が良かった。
生理的なものか、感情的なものなのか、頬を伝う雫に苦笑して、凛子は思考することを放棄する。
やがて、精神的疲労と肉体的疲労によって、意識が沈みゆく。
その抗いようも無い誘惑に、凛子は身を委ねた。