扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇

 それって下心有りで誘われているんじゃないの。
 書架に掛かっている梯子の天辺に座っていた凛子は、肩を竦める。

「エイゼルも来ればいいじゃん」
「行くよ」

 お目付け役だしね。
 付け足された単語に、凛子は舌を出した。

「いい加減慣れてきたんだと思うんだけどなあ、私」
「まだまだ、赤子同然」

「はー、お父さんが多くて困っちゃうよ」
「誰がお父さんだ」

「エイゼルとかエイゼルとかエイゼルとかトゥーリャさん」

「大酒呑みの娘なんて要りません」

 割り込んだ硬質な声に、凛子は姿勢を正す。

「ほら、仕事ですよ。魔術院にこの書簡を」
「はあいはあい」

 梯子を降り、声の主に向かって手を出すと、ぽかんと頭をはたかれた。

「返事は一回」
「了解致しました。ブチョウ」

「なんですか、ブチョウとは」
「役職です。一つの部署を統括し部下を管理する偉い人の事です」
「ふむ」

 生真面目な顔で、執務机に置かれてある冊子にペンを走らせる横顔に、凛子は何とも言えない気持ちになる。

「異世界語録作ってどうするんですか」
「これも指定座標の解析対象です」

 凛子の遭遇した事故に、叡智の塔主はそれなりの責任を感じているらしく、別の方向からの帰還方法を調査しているようだが、現状ではあまり芳しくないらしい。

「なにごともほどほどにですよ」
「貴女がそれを言うんですか」
「いやーだって、途方も無いっていうか、命有るだけでも運がいいと思わないとやってられないっていうか……」
「……」

 感情を巧みに隠しへらりと笑う女に、ラストゥーリャはペンを突きつけると「さっさと行きなさい」と退出を促した。
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