扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
クァルツでエイゼルを見かけた。
それを追う内に、群青の制服を着た青年等に囲まれ、まるで拉致されるよう石牢へ閉じ込められた。かと思えば、眠り姫の覚醒を促すようなキスを受け、目覚めたらここにいた。彼の面影を持つ男が、エイゼルを呼び付け……。
面倒ごとに巻き込まれているような気がする。
仮にエイゼルが犯罪者だとして、ディルと名乗った男がその主ならば。
世界を飛び越えた犯罪劇に、凛子は額に手をあてる。
スケールが壮大すぎる。ありえない。
否、ありえないことはありえない。
不可思議体験は空想のものでなく、実体験として既に凛子に刻み込まれている。
ふらふらと窓から離れ、寝台に体を投げ出した。視界に移りこむ枕もシーツも白。
枕を抱き寄せようとして、気がついた。はがれた爪が元に戻っている。
ジェルネイルはついていなかったが、形のよい爪は以前のままだ。
今更ながら、捻ったはずの足首がまったく痛くないことにも気がついた。誰かが怪我を治してくれたのだろうか。怪我というよりか再生。魔術のある世界なのだから、そういう事も可能なのかもしれない。治療を施され、白い服を身に着け――これでは本当に、入院患者のようではないか。
目まぐるしく変わっていく環境に、頭の螺子が飛んでしまったのではないかと疑ってみる。
雪の街。リラの店。エイゼルの裏切り。ロサとニルと過ごしたあの日々も夢だったと云うのか。
けれど、一週間以上経過しても、夢は覚めない。ところどころにキィワードを残して。盤上の駒はアウトポストさえ程遠い。
「シャール……会いたいな……」
返事をするかのようなタイミングで扉がノックされた。
どきりと跳ねた心臓を押さえ、凛子は扉をみつめる。
しかし扉は開かない。寝台の上で身を固くしたまま動けないで居ると、もう一度扉がノックされた。ややして遠慮がちに開かれる。入室してきたのは、先ほど給仕していた二人の青年だった。
寝台の隅に居る凛子に労わる様な視線をよこし、青年達は運んできたものを円卓に並べていく。チーズの盛り合わせ。野菜スティックと小豆色のディップ。果実の盛り合わせ。ナッツらしきもの。最期にグラスに注がれた琥珀色の泡立つ液体に、凛子の視線は釘付けになった。
夕食を飛び越え、酒席が整えられようとしている。
どういう意味?
もてなされているのか?
それとも何かの罠?
「サケとツマミをご用意いたしました」
かけられた言葉に、おもわず身を起こしてしまった自分が少し情けない。