扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました

 もちろん、謁見という形で週に数回異母兄とは言葉を交わしているが、大司祭となった異母弟が公式に王宮へ姿を現すのは、月に一度。それもお互い、周囲を沢山の人間に囲まれ、直接会話する事など滅多に無い。

 それぞれの場で得た情報を交換するために選んだのは、叡智の塔主の執務室だったが、それも皇太孫誕生の頃から数を減らし、今では三人が揃うことなど滅多に無かった。ゆえに、たった数日を挟んで弟と私的な場で会うのは非常に珍しい。

 ついとディエルの指先が自分に伸ばされるのを視界の端で捕らえる。

「もう貰ったの? 気の早い娘がいるね」

 その指先が摘んでいるのは薄桃色の花弁。

「ああ、さっきミアリエルの茶会に顔を出したから……」

「まさか妹と同世代の娘にするつもり?」

「そんな訳ないだろう」

「だろうね。――ねえシェイル」
 花弁を弄んでいたディエルが、それを床に落とす。
「探し物は見つかった?」

 話題の流れからは当然といえよう。シェイルは苦い顔をして口を開く。

「いや……」

「それにしても、シェイルにあんな顔をさせるなんてねえ」

 確かにあの時の自分は、冷静さを欠いていた。

「どんな娘なのか、想像もつかないな」

 冗談めかして片目を瞑るディエルの言に、言い訳がましく心の内で言葉を重ねる。

 生じた感情も日を置いてしまえば、どうにか頭の片隅に追いやれる。
 彼の日常は、祝祭週間であることも手伝い、忙殺の一言につきる。だからこの部屋に足を運んでしまったのは、ちょっとした息抜きなのだ。そう、弟がここに居るのと同じ理由。

「さてと、僕はそろそろ戻ろうかな」

 話を切り上げるようにディエルは立ち上がる。
 去り際に「トゥーリャは保管庫に居るみたいだよ」と、シェイルの肩を軽く叩く。

 意味深な笑みが、その表情に含まれていたことに、思考の波間を漂っていた彼は、気がつかなかった。

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