扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
 流れ込む言葉の奔流は、後頭部を殴りつけられたような痛みを伴う。
 凛子は間抜け面で、滑らかに動く口をただ見ていた。

「隔離結界が保たれるのは、およそ半刻でしょう。ですからその間に交わされるすべての会話は記憶していただきたいのです。私はアゼリアス聖王国天文院長官。ラストゥーリャ・ハルス・ウル・シータと申します。

 世界における新観点、新発想を根幹となす魔術に関しては私の方が多少得手としておりますので、魔術院の彼等では無く私が此処に居るという事は、今、議論されるべき事ではありません。無論、貴女が、私では役不足と判断される場合、後日、三位以上の署名を持って再論議の申し立てを要求する事が可能です。

 またこれらの言葉は立会人であるアゼリアス聖王国聖王庁大司祭猊下によって保障されます。さて、貴女の名前はリィンで、宜しいでしょうか? 異界の方」

 圧迫面接もかくやという状況に、凛子の口はあいたまま塞がらない。

 一息に告げられた言にディエルは、ここ数日におけるラストゥーリャの心労に思いを遣りながらも、苦笑を禁じえない。

「聞こえていますか? 言葉が通じていないという訳では無いと思うのですが」

 ぺたりと血濡れの扉の上に座り込んだままの体制で固まっていた凛子は、訝しげに顔を覗き込まれ、漸く僅かに体を揺らす。

 長身の男が腰を落として、視線が近くなった。
 細められている瞳に侮蔑の色は無いが、友好的な色も無い。

 凛子は逡巡した後「あのう」と遠慮がちな声を出した。
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