扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました

 先生、質問です。といった具合に右手を挙げる。
 どの点が判らないのかを自身で理解してから質問に来なさい。と反対に怒られそうな気分にもなるが、目の前の男が吐いた台詞から、せめて自分にとって意味のある単語を拾い上げる。

「えーっと、私は……リィンと呼ばれて? 名乗っているけど、本名は高宮・凛子。高宮が家名って事になるのかな。凛子が名前で、こっちの人たちは発音し難いみたいだからリィンって事になった……みたいです」

 日本語をもってして、彼等に語りかけるのは、実に奇妙である。
 本当に自分の言葉が通じているのだろうか。内心で首を捻りながらも凛子は、のろのろと思いついた事から声に乗せていく。

「本当に私の言っていることが、そっちに理解して貰えているのか、実感ないんだけど……今、貴方の話した言葉は、確かに日本語に私には聞こえてる。これって、魔法だか魔術とかが使われたって事? あの、血をどぱーっとか……」

 そこまで言って、凛子は視線を落とした。
 身に着けている衣服に、幾つも血痕が飛んでいる。
 座り込んでいる板の上にも。
 両腕の傷は塞がっていてそういえば、全く痛みを感じていないが、如何せん見た目が悪い。血で汚れているのはこの場において、自分だけなのである。

「正直……なんだか……気持ち、」

 悪い。と続けようとして、凛子は言葉を飲み込む。ラストゥーリャが剣呑そうに目を光らせたような気がする。

「気持ちが……気分が、悪いみたい。そう! 体調不良! 女性は血の匂いに慣れているっていうけど、流石に他人様の血液振りかけられると……血に酔いました先生」

 顔を俯かせていたディエルが、小さく肩を揺らす。
 ラストゥーリャはいよいよ不機嫌を顔に張り付かせる。
 エイゼルは気配を殺したまま身動ぎしない。

「あのね、先生っていうか。先生ぽいなーって。えーっとシャールのお友達で上司な、らすとーりゃさんが貴方?」

「…………なるほど。まず、そこからですね…………」

 ついに、ディエルが堪えきれないといった様子で吹き出した。
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