扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
 ヒューゴからの手紙によると、凛子が事件に巻き込まれた日の夜には、官舎まで騎士団が訪ねてきたという。ただし酩酊していた為、碌な話はその時には出来なかったと書いてあった。店を出た後の記憶は殆ど無く、気づいたら官舎の自室の床で臥せっていたらしい。その光景の方が、余程事件性が高そうだ。

 手元の紙束を推敲していたエイゼルは顔をあげる。

「ま、こんな所かな? そろそろ出ないと」

 その声に、凛子は笑みを零す。
 療養生活には飽き飽きとしていた。どんな事情でも、外に出られるのは喜ばしい。

 鬱血痕がだいぶ薄れたことも手伝い、本日午後、凛子への追加事情聴取が行われることになった。
 騎士団の王都支部は、王都の中央に位置している。
 近くには大きな公園もあり、散歩するには適度な距離だった。

 名目上、凛子の保護者であるところのラストゥーリャは、今秋の収穫祭を執り行う詳細な日程決めの重要な会議があり、付き添えない。よって、気心の知れた直属の上司でもあるエイゼルが、付き合ってくれることになったのだ。
 
 王都支部の建物内に足を踏み入れると、相変わらず、雑然とした雰囲気で、多くの騎士達が通路を行き交っている。学術庁の雰囲気とはだいぶ違う。あちらは粛々としているが、こちらは随分と賑やかだ。王宮内には王国軍騎士団の本部や訓練場等もあり、なんとなく騎士達の纏う空気感みたいなものを遠目にしていたものの、それともまた違った雰囲気である。

 都市の警邏を一手に担っている支部の騎士団の方が、より市井に近いからだろうか。
 運転免許証の更新で訪れた地域の警察署に似ており、凛子はなんとなく懐かしい気持ちになった。
   
 案内された部屋で、エイゼルと並んで座って待っていると、ほどなくして生真面目そうな男が、難しい顔をしながら入室してきた。

「ご足労とご協力、感謝しております」
「とんでもないです! お役に立つことがあれば」

「私はグレアムと申します。早速ですが、報告書の読み合わせ行わせていただきますが、齟齬や追記すべき点等ある場合は、挙手の上発言下さい。読み合わせ後に何点か質問をさせていただきます」

 書面から目を離さないグレアムに、見えるだろうかと思いつつも、凛子は首肯する。

「星霜通りに位置する酒場シリル亭でキュリー八杯を含む飲食を済ませた後、星霜通りを大通り方面に移動。途中、学術庁図書院在職ヒューゴ氏の体調を慮り、ベンチへと案内。露天にて補給用の水分を購入し、ヒューゴ氏の介抱に戻るも、同氏を見失った。後、何者かに襲われたリィン嬢は自失し、こちらの支部に運ばれるまで、意識を失ったままだった。これは間違いないですね?」

 事件の系列を淡々と追われると、自分の身に起こった事だとは俄かに信じがたい。
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