扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
「頸部圧迫による呼吸困難及び、同頸部への摩擦鬱血痕、右腕、左膝への摩擦痕、頭部への外傷はありませんが、恐らく刃物による斬髪有り。摩擦痕鬱血痕は全治二週間程度の軽傷」
グレアムの言葉に凛子はなんとなく首元へ手を遣る。
「同行していたヒューゴ氏は中央官庁の同僚。私的に行動を共にする関係性ではなく、事件当日が、既知となって初めての会食。店舗を選んだのも、経路を選んだのも同ヒューゴ氏であり、リィン嬢の意志は一つもそこに無かった」
きらり、とグレアムの視線が光ったように凛子を見据える。
なぜか、自分が責められているような気分になり居心地が悪い。
と、いうかこの物言いは。
凛子はつい、手を挙げる。
グレアムが頷き、凛子の言葉を促した。
「どうぞ」
「もしかしてヒューゴさんの事、疑っていますか?」
「彼への聴取は済んでおりますが、現場不在証明という点では完璧とは言い難いのも事実です。ですが……多少、事件の捜査へ進展が御座いまして」
グレアムはそこで言葉を一つ区切り、こほんと咳ばらいをすると、一枚の書面を凛子に見せる。
「この人物に見覚えはないですか?」
唐突に寄越された紙には、墨で誰かの姿絵が描かれてある。
これといって特徴も無い顔付きの成人男性だ。
「頭髪は灰色、瞳は緋色だそうです」
ヒューゴの瞳の色も緋色だったが、姿絵の人物とは似ても似つかない。
凛子はうーんと首を捻る。
「それでは、こういった装飾品に心当たりは?」
次に示されたのは布に包まれた黒色をした親指程の像だった。
荒く彫刻されているようで、人間なのか生物なのか、はたまた植物なのか。何を題材にしたものか見当がつかない。
凛子の知識の中にあるものならば、お土産に貰っても置き場に困る民芸品などだろうか。
「これって玩具なんですか?」
疑問の声に、グレアムは首を横に振る。
「玩具ではないですね、飾り用かとは思いますが」
「心当たり、全く無いです」
答えにグレアムは小さく頷き「結構です」と黒い像を布で包むと席を立った。