扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇

 ミアリエルは欠伸を噛み殺した。
 もう少し起きていたい。お祭騒ぎとなっているであろう夜の街を今年こそは見てみたい。昨年までは王宮へ戻る頃には、輿の中で眠ってしまっていた。だから、今年こそは。

 明日、華宵本祭の最終日、王宮で行われる大舞踏会に、ミアリエルは主催者側の一人として正式に出ることになっていた。賓客ではなく、客を持て成す社交の場へ。それはつまり、成人に向けた一歩を進むということだ。

 兄達に言わせれば「まだ早い」の一言だろうが、自分のサロンで行われる茶会とは規模が違う公的な場で、ゲストを出迎えるのだ。

 気合を入れ直すよう、清涼感のある少し苦い茶を飲み干す。
 大聖堂のさらに奥にある広間に、やんごとなき身分の者とそれに仕える人間が集っていた。にも関わらず、場はかなり砕けた雰囲気だ。

 それもその筈、この場にいるのは王族と彼らに仕える者のみ。
 奥宮の一室であるかのような気安い空気である。
 ミアリエルがお付の女官にお茶のおかわりを注文すると「そのくらいにしておきなさいませ」と窘められた。

「御不浄が近くなってしまいますよ」

 はっきりとした言に、ミアリエルはお腹に手を当てる。言われてみるとちょっと……

「行っておきたいかも……?」

 大聖堂から王宮まで戻るのには、かなりの時間がかかる。下手すると日付を越してしまうかもしれない。
 女官は苦笑しつつミアリエルの手を取る。

「一人で行けるわよ」

「そういう訳にはいきませぬ」

 立ち上がり、中央の方をちらりと見遣ると、歓談している輪から笑い声があがった。
 ミアリエルは自分が笑われた訳でもないのに、なんとなく気まずい思いをしながら広間を後にする。

 滑らかに続く床石に踵を落とすたび、音が響き回廊に沈み消える。
 広間からさらに奥まった場所にある中庭を横切り、小さな建物へ向かう。
 空は漆黒ではなく、国中を照らしている松明からの炎に、わずかばかり染められているような色をしていた。街の浮かれた空気が、静かな聖域にまで届いているような感覚。
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