扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇
「無いっ!」
胸元を押さえて、立ち止まる。
ラストゥーリャから渡されていた魔術具が見事に鎖の先から消えていた。
この所ほぼ聖王院の方につめているラストゥーリャと直接顔を合わせる機会が無かった為、簡易的な定時報告を、直接賢者の手元に転送していたのだが、転送するための魔術具が見当たらない。大事なものだから失くさない様に、そこそこ大き目の術具を、あえて首から下げるようにしていたのだが。
回廊の柱にある水時計を確認すると、定刻まではまだ少し時間がある。
どたばたと走り回っている内に、落としたのだろうか。小さいものでは無いから、落としたのだとしたら気が付いてもよいものだ。
凛子は自分の道行きを頭の中で遡る。
出仕して、賢者の執務室で中央庁議から戻ってきた上級官吏官達と簡単な朝礼。
その後魔術院研究室へお遣い。
大荷物をちょうど床にばらまいた所で、外宮回廊ですれ違うのは珍しい軍本部の青年騎士二人が、見兼ねて運搬まで手伝ってくれた。
戻って図書院へ立ち寄ったタイミングで正午を告げる鐘。
昼食を摂る間も無く、執務庁にお遣い。
今はその帰りで外宮中央二階付近。お腹が空いたと、ぼんやり思っていた所だった。ふとお腹に手を当てた瞬間、ぶら下げていたカードサイズの金属の板が、見当たらないことに気が付いたのだ。
この時間帯エイゼルはどこに居るのだろうか。
一番最初に頭に浮かんだのは、彼女の直属の上司にあたる水の魔法士だった。
現代日本と違い、遠隔に居る相手の状況を知る手段は皆無である。
しかも凛子は魔術が使えない為、術具が無いとなると、殊更エイゼルを頼るほか無い。
空腹である事も手伝い、思考が上手く纏まらない。
無意識の意識の中、一歩ふらりと踏み出した刹那、背後から頭の後ろをぽこっと叩かれた。
そして振り返った彼女は、そこにいる背の高い人物が冷やかな視線でこちらを見下ろしている事に気が付き、声を失い瞠目した。