扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
回廊に、靴音が虚しく響く。
食堂のある階下へと続く大階段付近からの匂いが凛子の胃を刺激するが、虚しくそこを通り過ぎ、先へ。そして王国軍の本部へと続く渡り廊下へ差し掛かるが、男の歩みは止まらない。
通路の脇へと避けた何人かの青年騎士や少年の域を出ていない見習いの子が、将軍に敬礼をし、その後ろへと続く項垂れた官吏をチラリと見遣る。
黙したままの男の後に続いて幾つかの階段を上がり、一つの扉の前までたどり着く。華美な装飾は施されてはいないが、年代物の重たそうな色合いをしている。開かれた室内は、奥に大きな執務机があり、手前には応接椅子と平卓。
促された凛子は椅子の一つに浅く腰かけた。部屋の主はすぐ横にある装飾の無い扉から隣室へ向かってしまい、主の居ない部屋に一人残され、凛子はいよいよ途方に暮れる。
考えるまでも無く、ここは彼の執務室なのだろう。ラストゥーリャの執務室も、このような配置だった。この国最強を誇る剣士が主の部屋は、ある意味でこの国一安全な場なのかもしれないが、疑っている人間を置き去りにするのは無防備すぎないだろうか。
凛子は魔術具をぎゅっと握りしめながら、この良く判らない状況が早く終わればいいのに、と祈りながら、男の消えた扉を見つめていた。
と、すぐに扉が再び開かれて男が姿を現した為、必要以上に驚き体を揺らしてしまった。青灰の瞳と視線が合うが、反射的に反らし、結局行き場のない視線は手の中にある魔術具へとおさめる。
卓の上に、刻計が置かれた。細長い。いつか見せてもらった事がある。
黒色のラインより白色のラインの方が、まだ長かった。