扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
――――許諾無き者は入る事叶わず。
試しに、髪飾りを投げつけてみると、見えない壁に弾かれ落ちる。
鳥達がクゥクゥ急かすように騒ぎ始め、ミアリエルは困ったように眉を下げる。瞬間、背後でエマウが息を飲んだ。
「ミアリエル、様っ」
女官の指差す先、開け放たれた窓の向こう。
闇色の中、闇色を纏った一人の女が、ぽかんとした表情でこちらを見ていた。
奇妙な沈黙が降りる。
「こんばんは良い夜ですわね」
ミアリエルの声に、室内に居た女はぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「……コンバンハ……ダレ……」
「聖官の方? 女性がいらっしゃるなんて珍しいですわね……ええと、お願いがあるんです。そこの、パン屑をいただけないかしら? この子達のために」
「パン……?」
「ええ、パン屑」
枝先の鳥がばさりと両翼を広げる。
黒髪の女は一瞬驚いたように鳥を凝視し、それでもどこか納得のいったような表情で小さく頷くと、パン屑を寄せ集め、片手をミアリエルに向け差し出し、ぴたりと動きを止める。女の手を目指してぴょんと飛び上がった鳥が、また、ぼたりと地上へ落ちた。
女は困惑したようにじっとこちらを見つめ返す。
ミアリエルは眉を寄せる。
再度腕を伸ばそうとした女の動きは、すべて見えぬ壁に遮られる。
「デキナい」
幼子のような発音で女が言った。
「なんてこと……」
ぐるぐると思考を巡らせていたミアリエルがぽつりと呟いた。
――――許諾無き者は入る事叶わず。
そして――許可無き者の出る事を禁ず。
奥宮内のミアリエルが生活する範囲を守護する結界と、同様の物がこの庫院に施されているのだ。
誰かを護る。否、閉じ込める為の結界。
――籠の鳥。
途端に心の内を逆流するかのような感覚。怒り。
「先ほどの質問にお答えします。わたくしはミアリエル。ええ、ええ、あなたの同志ですわっ!」