扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
時を少し遡る。
非情に珍しい事に、恐らくほんの少しだけ酔っ払って寝入ってしまっていた凛子は、不意に喉の渇きを覚え目を覚ました。
頭の奥がじんわりとしびれているような気がする。
室内は暗く、だが照明の点け方を知らなかった彼女は手探りで水差しを求め、窓辺に寄った。
確か卓の上に目当ての物はある筈。
ぼんやりとした記憶を辿りながら、薄闇に手を伸ばしかけた時、押し殺したような声を聞いた気がして顔をあげた。
可愛らしい少女が闇夜に浮かんでいる。
胡乱な頭のまま目を凝らすと、少女は浮かんでいるのではなく、樹の枝にまたがっているのだった。その後ろにももう一人、自分よりかは若そうな女性が必死な形相で枝にしがみ付いている。そして彼女達をとりまくたくさんの青い鳥。ファンタジックであり異様な光景だった。
淡茶の柔らかな巻き髪に翡翠色の瞳。
若苗色のドレスは捲くれ上がり、しっかりと樹の太い枝に巻きついている。そんな体制で少女はにっこりと微笑んだ。
短いやりとりの中で理解できたのは、この少女はどうやら鳥にパン屑を与えたくて、樹に登ったという事。なぜ、どうして、という疑問が駆け巡るが、凛子は意思疎通を楽にはかれるほど、こちらの言葉を知らない。少女の願いに応えるべく、桟に並べたパン屑を渡そうとしたのだが、見えない壁にぶち当たりどうしてもそれを渡すことが出来なかった。
そして――少女が何事かを叫んだ。
呆然とする凛子の目の前で、少女の登っていた樹がめきめきと音を立てながら体を膨らませていく。こちらに向かって伸びてくる枝は見えない壁に遮られ、不自然な方向に曲がっていく。あっという間に視界は緑と茶色で隠され、どしんという衝撃と共に凛子はすっころんだ。派手に何かが壊れる音が、暗闇に響く。
「リィン! 大丈夫っ!」
飛び込んできたエイゼルに抱き起こされる。
凄い力でがくがくと体を揺すられ、凛子は口元を手で覆った。
「ぎもぢわる……あんまり揺すらないで……」
「魔力にあてられたかっ!」
「頭に響く……大声やめて……」
日本語で苦しそうにうめく凛子に、エイゼルは一層必死の形相になりぺたぺたと額や頬に手を当てる。無理やりに立ち上がらされ、凛子の体は重力をうまく捕らえきれずに、ぐらりと傾いた。
冷静な状況でいられる訳が無い。起き抜けで、喉もまだ潤せないまま、樹上の少女と対峙していたかと思ったら、樹の枝が膨らみ、何かの衝撃で転び、エイゼルにがくがく揺さぶられる。
夢の続きなのか、はたまた現実に起きている出来事なのか。こちらに来てから訳のわからない事だらけだ。挙句の果て、エイゼルに荷物のように担ぎ上げられ、ぎゃあぎゃあ喚いた。