扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇
「自分が何をしたか理解しているんですか?」
ミアリエルは、猫の子の様に首根っこを掴まれぶら下げられていた。
「甘やかしすぎましたかねえ」
「わ、わたくし何も悪いことしていないわ。庫院を損壊させた事は認めますっ! でも!」
「でも。じゃありません。自覚が足りなさ過ぎる」
貴女は王族。民の見本でしょう。
大司祭は笑みを湛えるが、瞳の奥は笑っていない。
ぼろっと、大粒の涙が零れ落ち、ミアリエルの頬を濡らす。
「お兄様――大司祭様がっ、あんな……ふしだら!」
「何ですいきなり」
騎士を引き連れ姿を現したシェイルを視界の端に捕らえ、ディエルは苦虫を潰したような表情を浮かべ、ミアリエルをぽいっとそちらに投げる。
「この悪戯娘を広間へ。報告は後にしましょう。これでは今夜寝る場所が無くなってしまう」
「お前達は片付けを手伝え」
部下に指示を出すシェイルに、ディエルが腕を振る。
「大丈夫です。人手は足りていますし、聖域の問題は聖域で片します」
「そういうわけにはいかん。これを引き起こしたのはミアリエルなんだろう。何故こんな騒ぎを」
呆れ果てた声の調子に、反省しつつも、ミアリエルは言い訳を紡ぐ。
「だって……助けたかったんですもの。閉じ込められてるの……」
「――人聞きが悪いね。大切な客人を預かっているだけだよ。さ、もう広間にお帰り。お仕置きは明日だ」
「お、お仕置きなんて受けないわよ! 嫌がらせとしか言い様が無い守護結界から」
「ミリィ!」
ディエルが鋭い声を飛ばす。
ミアリエルが身を竦ませる。
喉をひくつかせ、しがみ付いてくるミアリエルを抱き上げ、シェイルは天を仰いだ。
刹那、木霊するヒステリックな女の叫び声。
「揺すらないでって言ってるでしょ! 下ろせーーーー!!」
庫院の一階の殆どが樹に侵食されていた。
二階通路の中央辺りまで腕を伸ばしていた枝はそのまま見えない壁に沿って天井へ突き抜けている。通路の中央でエイゼルは凛子を抱き上げたまま立ちすくんでいた。
今、二重結界が圧倒的な力でねじ切られた。その方向を見るのが恐ろしい位の、威圧感。
かつ、と足音が響く。かつ、かつ。
抱えあげられてばたばたしていた凛子を浚う誰かの腕。
大切そうに、抱き込まれる。
精緻な刺繍がされた、藍色をした儀礼服が目に映る。
視界の端で揺れる色はいつか見たような。
「リィン」
低めの掠れた声を、知っている。
「リィン」
その声を、知っている。
だから、名前を呼ぼうとして顔をあげ、
「え……?」
そこにある記憶とは違う顔の男に、首を傾げた。
「自分が何をしたか理解しているんですか?」
ミアリエルは、猫の子の様に首根っこを掴まれぶら下げられていた。
「甘やかしすぎましたかねえ」
「わ、わたくし何も悪いことしていないわ。庫院を損壊させた事は認めますっ! でも!」
「でも。じゃありません。自覚が足りなさ過ぎる」
貴女は王族。民の見本でしょう。
大司祭は笑みを湛えるが、瞳の奥は笑っていない。
ぼろっと、大粒の涙が零れ落ち、ミアリエルの頬を濡らす。
「お兄様――大司祭様がっ、あんな……ふしだら!」
「何ですいきなり」
騎士を引き連れ姿を現したシェイルを視界の端に捕らえ、ディエルは苦虫を潰したような表情を浮かべ、ミアリエルをぽいっとそちらに投げる。
「この悪戯娘を広間へ。報告は後にしましょう。これでは今夜寝る場所が無くなってしまう」
「お前達は片付けを手伝え」
部下に指示を出すシェイルに、ディエルが腕を振る。
「大丈夫です。人手は足りていますし、聖域の問題は聖域で片します」
「そういうわけにはいかん。これを引き起こしたのはミアリエルなんだろう。何故こんな騒ぎを」
呆れ果てた声の調子に、反省しつつも、ミアリエルは言い訳を紡ぐ。
「だって……助けたかったんですもの。閉じ込められてるの……」
「――人聞きが悪いね。大切な客人を預かっているだけだよ。さ、もう広間にお帰り。お仕置きは明日だ」
「お、お仕置きなんて受けないわよ! 嫌がらせとしか言い様が無い守護結界から」
「ミリィ!」
ディエルが鋭い声を飛ばす。
ミアリエルが身を竦ませる。
喉をひくつかせ、しがみ付いてくるミアリエルを抱き上げ、シェイルは天を仰いだ。
刹那、木霊するヒステリックな女の叫び声。
「揺すらないでって言ってるでしょ! 下ろせーーーー!!」
庫院の一階の殆どが樹に侵食されていた。
二階通路の中央辺りまで腕を伸ばしていた枝はそのまま見えない壁に沿って天井へ突き抜けている。通路の中央でエイゼルは凛子を抱き上げたまま立ちすくんでいた。
今、二重結界が圧倒的な力でねじ切られた。その方向を見るのが恐ろしい位の、威圧感。
かつ、と足音が響く。かつ、かつ。
抱えあげられてばたばたしていた凛子を浚う誰かの腕。
大切そうに、抱き込まれる。
精緻な刺繍がされた、藍色をした儀礼服が目に映る。
視界の端で揺れる色はいつか見たような。
「リィン」
低めの掠れた声を、知っている。
「リィン」
その声を、知っている。
だから、名前を呼ぼうとして顔をあげ、
「え……?」
そこにある記憶とは違う顔の男に、首を傾げた。