扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇


「で、あの後二人で消えて何していたの? 夜会に一瞬顔を出したのは君一人だけだったらしいけど」

「…………」

「数人の主賓に挨拶をして、とっとと辞したショーグン様は、仕事に戻るのかと思いきや、若い娘を連れまわしていたって噂」

 むっつりと黙り込むシェイルに、ディエルがくすくす笑う。

 内宮の個人庭園で寛いだ様子で語らう兄弟の様子は絵になる。
 女官達は、茶の用意をしながら囁きあった。これが祝祭週間の事ならば、勇気を振り絞って、アンジェの花冠を渡していたのに。憧れを伝えるくらいは許されていたかも知れない。

 しかし華宵の祭は終わり、既に忙しない日常が回り始めている。

「別に何もしていない。それより……なんでお前はここに居る」

「それ、酷いな。ここは僕の生まれ育った場所でもあるんだよ。今日はミリィの写本の様子を見に来たんだ」

 庫院破壊に関してはただの事故として処理された為、ディエルが妹姫に個人的に与えた罰は、聖典を書き写すこと。全五巻に及ぶ長ったらしい聖典を凡て書き写すのは、筆が早い人間でも一月はかかる。

「大司祭自ら?」

「そう」

「奥宮は向こうだが」

「その手前に兄の部屋があるんだから、立ち寄ってもおかしくないじゃないか。しかも二日酔いで寝込んでいるなんて、見舞わない理由が無い」

 痛いところをつかれ、シェイルは再び黙り込むと、女官が絶妙な間合いで茶を運んできた。
 弟がカップを口に運ぶのを横目に、立ち上がる。

「飲まないの?」

「いらん」

 振り返りもせず、東屋を後にする姿にディエルは軽く肩を竦めた。
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