扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
騎士団の本部は外宮の東側にある。
ちょうど学術庁がおかれてある塔群の真反対に位置している。と言っても似たような塔がある訳ではなく、外宮の二階部分と渡り廊下で繋がっているさらに外側にある建物だ。執務室で補佐官から簡単な報告を受けた後、鍛錬所に向かった。
この春に新しく配属された若い候補生達は、姿を現した将軍に、慌てた様子で礼をとる。
「そのまま続けろ」
鷹揚に手を振るい、再開された打ち合いを眺める。
無駄な動きも目立つが、総じて云うならば今年は当たり年かもしれない。
模擬刀がたてる鈍い音が蒼穹に沁み消える。
アゼリアスは安寧の国だ。ここ何年も国を挙げての大きな争いは無い。それでも西国境を成す山脈を越え、大陸の覇者を目指すイズラルは、小規模ながら侵略を試みている。万が一、ロマーヌが落ちたら次はトゥリローゼ。砂漠地帯を抱えるエジンドラレスまで足を伸ばすのは、冬が過ぎた今暫くは困難だと思える。夏の砂漠のみちゆきは、容赦なく体力を奪うだろう。
しかしエジンドラレスが有する砂漠の国境線に比べ、冬将軍に支配されていた険しい山脈が形作るアゼリアスの国境線は、春から夏、そして秋の初め頃まで、その様相を幾分か和らげる。
雪が融け、固められた大地は、歩くのが困難であるものの、越えるのは不可能ではない。まして騎馬ならば。西国境にある砦の様子もそろそろ確りと見ておかねばならないだろう。
士官候補生の打ちこみが払われ、模擬刀が地を転がった。
足元に届いたそれを、シェイルは爪先で跳ね上げ、右手におさめる。
「もうしわけ、ありません!」
頬を高潮させた、候補生の一人が駆け寄る。
背はシェイルとおっつかっつだが、体の線はまだまだ細い。
「腕だけで押そうとするな。重心を低くし、体ごと力を入れるよう意識しろ」
「はいっ!」
「俺も少し体を動かすか――遠慮なく来い。誰からでもいいぞ」
感嘆に目を瞬かせた候補生達に、シェイルは忽ちのうちに囲まれた。