扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました

 柵の向こうをレイモンが指し示す。
 木製の屋根に覆われ、全面には壁面の無い建造物。干し草と藁、それから動物の体臭。

 それらは凛子に、ロサ老人のところにあったベレーの厩舎を思い出させる。
 それよりもかなり巨大で堅牢な造りをしているが。
 柵の向こう側はかなり奥行きがあり、屋根の影が落ちていた。その暗がりに優美に体を丸めている獣が居る。

 レイモンが懐から取り出した鈴のような物を鳴らすと、茶褐色の毛皮に埋められていた頭が擡げられた。

 ゆっくりと身を起こした獣が前足を揃え身体を伸ばす。ネコ科の肉食獣に似ている気がする。けれど、その大きさは凛子の記憶の中にある虎よりもライオンよりもずっと大きい。
 尻尾を揺らしながらこちらへとやってくる姿は王者の貫禄がある。陽の下に立った獣の瞳孔が縦長にすぼまった。

「こいつはジェイド種」
「近くで見ると大きいですね」

「そこまで持久力はないが、なんせ脚が速いからな。クァルツまでなら大丈夫だろ」

 レイモンの言葉に、獣が不満げに鼻を鳴らす。

「ヴェゼー種は出払っちゃっているんですか?」
「お前好きなの? ああいうの」

「格好いいじゃないですか。飛行種は珍しいし市場でもほとんど見られない。閣下は先ほどあんな事言ってましたけど、軍の厩舎なんてなかなか来る機会ないですしね」
「これからは嫌でも見れるようになるんじゃねえの。なんといっても中央官吏だからなあエイゼル。よ、出世コース」
「中央官吏って……強調しないでください……」

 留め金が外され、柵が開かれる。
 進みでた獣が地に伏せる。
 興味津々な顔つきで獣を見守っている凛子の身体を、レイモンはひょいと抱え上げた。

 声を出す間もなく、凛子は騎乗の人となる。
 獣が立ち上がり視界が一気に高くなった。レイモンを少しだけ見下ろす高さだ。そのまま動き始める獣に、凛子は慌てるが、レイモンは人の良さそうな笑みを浮かべているだけだ。

 緊張しながらも、身体を支えるために獣の首もとあたりに手を添える。触れる毛並みは驚くほど柔らかい。しなやかな筋肉が上下する動きが伝わってくる。厩舎前の広場と鳴っている場所をぐるりと一周し、獣は再び腰を落とした。思いがけない体験に、感嘆の溜め息が出た。
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