扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
◇◇◇

 凛子の為にささやかな晩餐が開かれていた。
 夜になって再度訪れた黒き賢者の執務室の中央には長テーブルが置かれ、簡単な酒席が整えられていた。

「これは匂いが残りますね」
「明日一日窓を開放してればいいんじゃない」

 ついでに、引き篭もっていないでたまにはトゥーリャも外出しなよ。とディエルが笑みを浮かばせる。

「三人とも、ありがとうございました。いろいろお世話になって」

 殊勝な態度の凛子に、ディエルが片眉をあげた。

「僕は寂しいなあ。もう少しこっち居ればいいのに。大切に大切に閉じ込めて愛でてあげるよ」
「それちょっと怖いから遠慮しとく」

「冷たいなあ」
「この歳になって、生活基盤を一から作り直すのって大変そうじゃない。染み込んだ価値観もまったく違うしさ」

 ぽんぽんと言葉が返ってくる凛子に、ディエルは心底残念そうな表情を浮かばせた。
 こういうのが一人傍に居たら、自分の世界はもっと面白くなるだろうに。

「でもね、会えて良かったと思う。今でも夢みたーいって感じるんだけど、世界は一つだけじゃないんだねえ。それ知っただけでも、人生の幅広がりそう」

 だから、本当にありがとう。
 凛子は親愛と感謝を込め、一人ずつに握手を求める。

 僅かに顔を顰めているラストゥーリャは、軽く凛子の手を握る。
 ディエルは受け取った手に、音を立ててキスをした。
 エイゼルは泣き笑いのような表情で、握手した後に、凛子の頭をかき混ぜた。
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