扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました

 クッションに背中を沈み込ませ、ぼんやりと室内を見る。
 黒い液晶の画面が目に入る。視線を転じるとベッドが映り込んでくる。その横に空気清浄機。壁面の収納。一人で暮らすには十分機能的な配置だ。

「私の住んでる部屋みたいな単身向けの集合住宅とかは無いのかなーとか。ロサさんとこは戸建てだったし。リラさんの所は食堂兼宿泊施設だろうし。シャール達が居た所ってパブリックスペース――公的な場所」

 言葉を捏ねくり回して、凛子は内心で眉を下げる。

 本当は知りたいのだ。
 今、隣に在る男が何であるのか。なぜ、あの日彼の寝室と自分の部屋がつながってしまったのか。どういう事情があって、界を分けていた扉がつながり、閉鎖空間を造り上げたのか。

 胸の内でぐるぐるうずまく疑問をなんとか押さえ込みながら、青灰の瞳を見れば興味深げにこちらを見返していた。

 男の頭はやや傾げられた。

「このような部屋が、いくつもあるのか――?」

「ん――?」

「狭小な空間に、生活に必要な最低限の物を無理矢理詰め込んだ部屋がいくつも連なっているのか?」

「えっと……うん」

 凛子はシェイルの興味の方向を掴みきれずに、結局頷いた。

「お前の様な独身女性勤労者向けの集合住宅なのか」

 純粋な好奇心から連ねられた音節なのだろうが、なんとなく貶されているような気分になり、むっと口を尖らせる。

「独身独身ってうっさいな。それに女性専用マンションじゃないから普通に男性も入居してるよ。うちの隣は男の人だし」

 昨今、隣人との付き合いが少なくなったとはいえ、隣人の存在くらいは認識している。
 一ヶ月に一回顔を合わすか合わさないか程度だが、顔を合わせば互いに会釈ぐらいはする。
 自分と同じくらいの年頃の隣人の姿を思い出す様に、凛子が隣の部屋と隔てる壁を凝視していると、横から慌てた様な声が発せられる。

「その薄そうな壁の向こうに男が!? どういう者なのだ其奴は!」

 捲し立てるシェイルに今度は凛子が首を傾げる番だった。

「其奴は! って言われても、良く知らないよ。普通のサラリーマン――勤め人なんじゃない?」

「得体の知れぬ者が近くに在るというのに危機感が無さ過ぎる」

「なんなのいきなり。そんな事言われたって知らないもんは知らないんだから仕方ないでしょ」

「何かが起こってからでは遅すぎる」

 どん、とシェイルが勢い良く缶ビールをローテーブルに叩き付ける。

「何かって何!」

 負けじと凛子は空になった缶を握りつぶす。

「そんな事言えるか!」

「逆ギレ? 意味判んない!」

「そもそも言葉も不自由していたお前が五体満足で居られたのは、運が良かったからだと理解しているのか?」
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