花屋のガーデニング委員会!
「心春。空くんは今日が登校初日だから、ちゃんと案内してあげてね」

お母さんに頼まれて張り切って登校したけど、空回りになりそう。その理由は……

「今日からこの学校に入学する薔薇園空くんよ。皆、仲良くしてね」
「「「キャー!かっこいい~‼」」」

空くんを職員室へ送り、離れ離れになった私たち。「大丈夫かなぁ」とソワソワする私とは反対に、彼は全く緊張していなかった。

「薔薇園空です。今日からよろしくお願いします」
「「「薔薇園くんー‼」」」

教室に入った途端、空くんは女子に囲まれてしまう。そりゃそうか、空くんってとんでもなくイケメンだもんね。「薔薇園」なんて名前も珍しいし。そういえば空くんって、どういう感じで皆とお話しするんだろう?
気になって、チラリと空くんを見る。先生に席を指定された空くんが、教壇から降りて自分の席へ移動していた。廊下側の端っこの席。前から五番目。そこへ行くまで、色んな子が空くんに話し掛けている。空くんは笑顔で「よろしく」と挨拶していた。昨日までバラだったとは思えない、人間界への順応ぶり。

「さすが……」

お母さん、何も心配いらなかったよ。隣の女子に教科書を見せてもらっているし。私の席は、空くんより二つ左隣の席。つまり一番後ろは廊下側から、空くん、女子、私、の順に並んでいる。だから隣の二人の会話がよく聞こえるの。

「薔薇園って、変わった名前ね?」
「はは、よく言われる」

家で見せる笑顔となんら変わらない、優しい顔。人当たりがいい空くんに女子も慣れたのか、ヒソヒソ声で盛り上がっている。あの様子なら何も心配なさそう――と安堵した一時間目の休み時間。移動教室のため、私と麻衣ちゃんは並んで廊下を歩いていた。すると麻衣ちゃんが私の顔を見て「うーん?」と首をひねる。

「心春、何かあった?」
「何かって?」
「今日の心春はすごく元気に見えるかと思ったら、浮かない顔をしているし。だから何かあったのかなって」
「元気になったのは……おじいちゃんもおばあちゃんもいない家を寂しいって素直に思えるようになったからかな。私、今まで寂しい気持ちを我慢していたみたい」

眉を下げて笑うと、麻衣ちゃんも同じ顔で「そっか」と笑った。

「おばあちゃんが入院してから心春の元気がないって分かっていたんだけど、気の利いた言葉が言えなくてさ。心春に悪いなって思っていたの」
「えぇ? 麻衣ちゃんは、ずっと私を励ましてくれたじゃんっ。昨日だって〝一緒にガーデニングしよう〟って言ってくれて嬉しかったもん!」

私の本音を伝えると、麻衣ちゃんは「良かった」と、ポニーテールの毛先を揺らした。

「でも昨日の今日で、どういう心境の変化なの?」
「えっとね」

昨日、空くんの部屋で泣いたことを思い出す。あの時間があったから、私は前向きになれたんだよね。寂しい気持ちから逃げずに向き合ったからこそ、吹っ切れることが出来たというか。

「あの時間を作ってくれた空くんに感謝しないとね」
ボソッと呟くと、麻衣ちゃんが「え」と驚く。

「空くんって、今日入学してきた薔薇園空くん?」
「そうそう……あ!」

しまった、私と空くんは学校で「何でもない関係」で通っているんだった! 学校には「私たち=遠縁」って話しているけど、混乱を招きそうだから皆には秘密にしている。一緒に住んでいることも内緒。それなのに麻衣ちゃんに話しちゃった!

「ち、違うの。空くんは何でもなくて!」
「でも〝空くん〟って下の名前で呼んでいるし。心春が男子を名前で呼ぶなんて初めてじゃない?」
「でも空くんは人間じゃなくて、元はバラだから!」

あ、と気づいた時には遅かった。麻衣ちゃんの口があんぐり開いている。

「バ、バラぁ?」

するとナイスタイミングでチャイムが鳴る。まだ移動教室に着いてないのに!

「急ごう、麻衣ちゃん!」

ワタワタ走る私とは反対に、麻衣ちゃんは陸上で鍛えた俊足で私を追い抜かす。

「教室に帰る時、詳しく聞くからね!」
「あぅ……っ」

空くんに怒られるかな? でも私、いつか麻衣ちゃんに話したかったんだよね。だって麻衣ちゃんは大事な友達だもん。隠し事はしたくないよ。

「だけど空くんの許しをなくして話していいものか……」

悩んでいると、背中をポンと叩かれる。驚くと同時に、後ろから空くんが顔を出した。

「なにか悩んでいるのか?」
「あ~、うん。ちょっとね……」

空くんのことで、とは言えなかった。麻衣ちゃんに色々とバラしてしまった手前、不自然に目が泳ぐ。そんな私を見て、空くんの眉は八の字へ。

「よく分からないけど、何かあったら俺に相談しろよ」
「え?」
「昨日みたいに何でも話を聞くって言ってんだよ」
「うん、ありがとうッ」

あ、空くんの耳が赤くなっている。照れているのかな? そう思った時だった。
 パンッ
空くんの背中が強めに叩かれた。「わ」と声を出しながらも、持ち前の運動神経の良さで踏ん張った空くん。すごい、私だったら絶対にこけていたよ。

「危ないな」

転ばなかったもののビックリしたらしい。空くんは、眉をしかめて後ろを振り返る。
そこには私と空くんの間の席――長谷川さんが立っていた。

「あら、ごめんなさい。でも立ち話をしていたら授業に遅れちゃうわよ?」

長谷川椿(はせがわつばき)ちゃんは、黒色ショートでさっぱりとした性格の女子。クールビューティーで有名なの。空くんと、もう仲良しみたい。

「注意してくれるのは嬉しいけど、押すのは危ないからやめろ」
「次から気を付けるわね」
「次もあるのかよ……」

二人の仲の良さに、どことなく居心地が悪いような……。長谷川さんって美人だから、イケメン空くんとお似合いなんだよね。
 モヤッ
ん? お似合いって何? モヤッて何? 自分の口に手を当てると、空くんみたいにへの字に曲がっている! なんで⁉

「花屋さんも。急がないと遅刻よ?」
「あ、うん。ありがとう」

私のことまで心配してくれる長谷川さんに、ありがたいと思いつつ。胸のすみっこに生まれた何かを、敏感に感じ取ってしまう。でも、その正体が分からない。この気持ちは何だろう。理解できない自分の感情を忘れるように、走って二人の後を追いかけた。
 ❀
授業が終わり、教室に帰っている最中。約束通り私は、昨日起こった全てのことを麻衣ちゃんへ話した。

「というわけで元バラの空くんは、現在我が家で一緒に暮らしています」
「ほ、本当にそんなことがあるんだ……」

信じてくれるかな? 不安に思っていると、妙に納得した麻衣ちゃんが「だからか」と頷く。

「薔薇園くんって、すごくいい香りがするんだよね。近くを通ると癒されるの。だから今〝薔薇園くんはバラ〟って聞いて、すごく納得できた」
「匂い……」

あまり感じなかったかも。すると麻衣ちゃんが「心春は庭でバラの香りを毎日かいでいたから、感覚が鈍くなっているのかもね」と言った。
確かに。おじいちゃんとおばあちゃんといた時は、いつもバラが近くにあった。バラの匂いを嗅ぐことが当たり前だったなぁ。

「そっか、バラの香りか」

薔薇園くんの匂いをかいで、バラを好きになる人が増えたらいいな。長谷川さんとか。
 モヤ

「……ん?」

また、モヤだ。胸も頭もモヤモヤしていると、移動教室での二人を思い出す。仲が良かったな。長谷川さん、ためらいなく空くんの背中に触れていたし。あの距離だったら、空くんからバラの香りがしたよね? 空くんからいい香りがするって知っちゃったかな?
ん? 〝知っちゃった〟って何? まるで「知られたくない」みたいな……

「おーい。心春~?」
「……あ」

私の顔の前で、麻衣ちゃんが手をフリフリ。そのまま私の頬を、人差し指でブスリ。

「いたッ」
「さっきまでいい笑顔だったのにねぇ。くーち」
「口? ……あ」

またへの字になっている! 慌てて口角を上げるも、時すでに遅し。麻衣ちゃんは意味深な笑みを浮かべながら、教室に入り自分の席へ行く。あぁ、変な誤解をされていなきゃいいけど……!
 
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