『今度召喚されてくる聖女と結婚する』と婚約破棄した婚約者が泣きついてきたんだが殴っていいだろうか?

 聖女というのは、女神の生まれ変わりが生まれたと同時に現れるものだ。
 なぜなら聖女は“女神の力”。
 この世界を創造した女神ソアリア様は、太古に女神を一方的に愛し、どうにか自分の妻にしようとした不届き者が存在した。
『始まりの人間の王』――バミニオス。
 バミニオスにより女神を捕えるための軍勢が結成され、追い詰められた女神様は自身の“神としての死”と引き換えにバミニオスとその軍勢を世界の地下世界に封印した。
 その時に女神様の力の一部が消失を逃れ、以降女神様はこの世界のどこかに転生するようになる。
 また女神様の転生に伴い、同時に女神様の力を受け継いだ女性が現れるようになった。
 女神様の力を受け継いだ女性は聖なる女性――聖女と呼ばれ、女神の生まれ変わりと同等に王族と好意貴族が婚姻という形で保護することが決まっている。
 しかし、守りであるはずの聖女は時折、産まれてこないことがあった。
 どうやら女神の力は、ある程度適性がなければ扱えないらしい。
 そして『アブソリュート・ソアリア』にその適正のある人間がいない時、異世界から適性のある女性を召喚することがある。
 わが国では幸い、聖女を召喚する必要がなかった。
 だが今回、何年も聖女が現れなかったためいい加減国を守るために聖女が召喚されるのだろう。
 なぜなら聖女の存在は、女神の生まれ変わりを守るだけでなく、国防の要でもある。
 バミニオスとその軍勢は、今もなお実体のない瘴気という形で次元の隙間から噴き出し、女神の生まれ変わりを探しているのだ。
 女性だからこそ、バミニオスの死してなお女神を手に入れようとする執着が気持ち悪い。
 瘴気はバミニオスの手先である軍勢の形を取り、それは『障兵(しょうへい)』という兵士の形をした異形となって人の国に攻め込んでくる。
 次元の隙間は小指の先ほどの大きさであっても瘴気を噴き出し、障兵の姿を取って襲ってくるので被害はここ数年でどんどん増えていた。
 この国に女神の生まれ変わりがいると、バレたからだ。
 そして本格的に障兵が王都に現れる前に、聖女を異世界から召喚する。
 それしか女神の生まれ変わりと国を守る方法はない。
 
「フィアナがあなたの妹――公爵令嬢だからこそ、今の今まで王都は無事だったといえるわよね。でも、それももう限界、ということなのね」
「ああ、王都から離れた小さな村などはいくつか滅ぼされたらしいよ。我が国は『バミニオスの亡国』と隣接する唯一の国だからね。むしろよく今まで手をこまねいていたと思うよ」
「そう……。まあ、今まで聖女召喚の儀をやったことがないから、他国にやり方を教えてもらっていたのだろうけれど……」
「ああ、そういうのがあるのかぁ。確かに失敗できないものね」
 
 我が国の筆頭魔法師、ブリジット・ジヴェといえばこの大陸以外の国々に留学して、多くの知識を得てきたこの国始まって以来の天才。
 実際噂だけでも彼が他国でその才能を認められて、幾つもの国に引き留められたとかなんとか。
 もしかしたら、噂の域を出ないかもしれないけれど。
 ともかく、その我が国の筆頭魔法師、ブリジッド・ジヴェ様が他国より聖女召喚の儀について他国から学んで帰国したという。
 近く、聖女が異世界から召喚される。
 わたくしが婚約破棄された理由が『今度召喚されてくる聖女と結婚する』からだもの。
 ユリッシュは婚約者もいない独身。
 異世界から聖女が来ても、ユリッシュと婚約することだってできた。
 それなのにわたくではなく、まだ見ぬ聖女の名誉ある結婚を望んだのだ。
 どうぞお好きなように、と思うのが当然ではない?
 それならこっちだって好きなようにするわ。
 
「ちなみにフィアナの家庭教師は続けてくれる?」
「それは大丈夫だと思うわ。パシュラール公爵家からわたくしへの個人依頼だもの。継母(おかあ)様もわたくしへの依頼を勝手に断れないでしょう。パシュラール公爵家との唯一の繋がりだしね」
「それならよかったー。君以外にはとても頼めないからねー」
「あなたの人気者ぶりは、ご婦人世代にもものすごいんだったわね」
「そうなんだよー。自分の娘やら妹やら姪やら、ね。家族以外でロゼリアだけだよぉ、僕をガワ抜きで見てくれるのは」
「大げさよ。あなたの中身を見て、愛してくれる女性は必ず現れるわ。まだ出会っていないだけよ」
 
 そう元気づけるのだけれど、返事はない。
 わたくしの知らないところでも、さぞ養子で苦労しているのだろうから。
 ……本当に……彼のこの繊細なところをや、妹のためならどんな汚いこともいとわない激情的なところも含めて愛してくれる女性はいないものだろうか。
 
「わたくしからすると恋愛結婚したい、なんて言うあなたがおかしいと思ってしまうのだけれどね」
「だってフィアナが『お兄様には恋愛結婚してほしい』って言うんだもの」
「言っていたわね。フィアナもそういうものに憧れるお年頃なのはわかるけれど、貴族なのだから条件がいい相手と結婚して、その人と絆を築いていく方向で考えた方がいいわ」
「君は本当にそういうところドライというか……考え方が貴族だよねぇ」
「貴族だもの」
 
 九つの時にエルキュール殿下との婚約が自分の知らぬところで決まったせいか、そういうところは割り切ってしまった。
 それに――
 
「それに……身分で結婚相手が決まるのもおかしな話だと思っているの。聖女は身分関係なく、王族か高位の貴族と結婚しなければいけない。わたくしの継母も平民よ。結局のところ、結婚って恋愛ではなくその時の“都合のいい相手”でするものなのではなくて?」
「君の継母と侯爵様のはレアケースな気もするけれど……」
「それでも女に生まれたからには恋愛結婚なんて絶望的なのよ。わたくしも恋愛はしないことにしたの。だってわずらわしいことにしかならないのだもの。経験上」
「まだ若いのに枯れたことを言うねぇ」
「枯れたのよ」

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