彼は魅惑のバレリーノ
溢れる想い
あっという間に金曜日になった。
悟られないように、いつも通りを装った。
荷物はすでにまとめてある。
仕事が終わって帰ってきたら、そのまま出よう。
今夜は亜季が泊めてくれると言ってくれた。
あのアパートも解約して、新しい場所を探そう。
そう決めて、仕事を終え、家に戻ってきた。
まだ柊くんはいない。
本当は直接言うべきなんだろうけど……
言ったら、全部ぶちまけてしまいそうで怖かった。
だから置き手紙を置いた。
(よし……行こう)
玄関を出て、鍵を閉めたその瞬間。
「一華さん?」
振り返ると、柊くんが立っていた。
「柊くん。」
「何してるの?」
視線が、私のキャリーケースに落ちる。
逃げ場がなくなる。
「いや、その……出ていこうと思って。」
「なんで?」
声が低い。
いつもの優しさが消えている。
「いや……あの……迷惑かなって。」
「とりあえず中で話そう。」
そう言うと、鍵を開け、
私の手をぐっと強く引いた。
拒む隙もなく、
私は引き戻されるように家の中へ入った。
その手の温度が、
痛いほど熱かった。