彼は魅惑のバレリーノ
「一華さんだったんだ……この絵を描いたの。」

柊くんはキャンバスを見つめたまま、ゆっくりと微笑んだ。
その横顔は、懐かしいものをようやく見つけた人のように穏やかだった。

「だから俺は、また君に惹かれたんだね。」

「どういうこと……?」

問いかけると、彼は少しだけ視線を落とした。

「昔、心を動かされた絵があるって話したでしょ。
あの頃、俺はバレエを続けるか悩んでた。怪我もして……この先また踊れるのか不安で。
世界には俺より才能のある人がたくさんいて、そんな中でやっていけるのか自信がなかった。」

言葉を選ぶように、柊くんは静かに続ける。

「でも、この絵を見た時……“飛んでいいんだ”って思えた。
背中を押されたんだよ。もう一度、前に進んでみようって。」

その声は、あの頃の痛みも、そこから立ち上がった強さも含んでいて、胸にじんわり染みていく。

「そうだったんだ……。なんか、不思議な縁だね。」

「うん。もう運命だよ。」

甘いはずの言葉なのに、彼が言うと自然に心に落ちてくる。

「ねぇ、一華さん。この絵……俺にくれない?」

「いいよ。どうせ処分しようとしてたし。」

「ありがとう。」

柊くんはキャンバスを両手でそっと抱えた。
まるで壊れ物を扱うみたいに、丁寧に、愛おしそうに。

その横顔があまりにも優しくて、胸の奥がふわりと温かくなる。

——あの頃の私が描いた“未来の先へ”。
それが、彼の未来につながっていたなんて。

こんな奇跡みたいなこと、本当にあるんだ。
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