彼は魅惑のバレリーノ
もう一回だけ、頼んでみようかな。
そう思ったら、体が勝手に動いていた。

そして私は、また彼のもとへ足を運んだ。

「ごめんね。やっぱり力になれないよ。」

今日も同じ答え。
わかってる。わかってるんだけど、諦め切れない。

あともう一回。
あともう一回だけ。

……そして気づけば、一週間が経っていた。

「あのさ…さすがに一週間来られるのも困るんだけど。」

目の前の戸神さんは、あからさまにため息をついた。
端正な顔立ちが、今日はいつもより冷たく見える。

いや、冷たく見えても美しい。
むしろ冷たいほうが美しい。
なんだこの人。

「聞いてる?」

低い声に現実へ引き戻される。

「はい、モデルお願いします!」

反射的に言ってしまった。

「聞いてないねー。」

呆れたように眉を下げるその表情すら、完璧だった。


「さすがにこれ以上しつこいと警察呼ぶよ?」

その言葉に、さすがの私も一瞬固まった。

「それは流石に…」

「そうでしょ。なら帰ってください。」

淡々とした声。
本気で迷惑そうな表情。

「うー…」

「そんな顔してもだめです。」

「一回、一回だけ!」

「無理。」

「そこを何とか!」

「……無理。」

短い沈黙。
その間に、完全に望みが消えていくのがわかった。

ダメか。

「わかりました。」

そう言うしかなかった。
背を向けると、冷たい空気が一気にまとわりつく。

家に帰る道のりは、いつもより長く感じた。
玄関を閉めた瞬間、どっと疲れが押し寄せる。

だけど——忘れられない。

あの人の踊る姿。
練習場のあの一瞬の美しさ。

目を閉じると、また浮かんでくる。
どうしても、頭から離れてくれなかった。
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