あやかし銀狼に恋をして〜じれ恋はやがて溺愛に包まれる
【あやかし瑠宇斗と神元瑠宇斗の誕生】
 時を戻し、登喜代が店を構えるずっとずっと昔、今から300年前の話・・・
 癒怒町に母1人少年1人の親子が住んでいた。少年の名は「達之助」。
 母は病にかかりながらも昼も夜も働き、達之助も駄賃を稼ぎに近所の手伝いをしたりして、明日食べる物もままならない中でも、仲良く2人で暮らしていた。でも、病は母の体を蝕み、とうとう動けなくなり寝込んでしまった。家には今日食べる物も無く、もちろん薬も買えない。
 「そうだ!山にツユクサを摘みに行こう!待ってろよ、母さん。夜には帰って来るからな」
 小さくガサガサした手で、母の手を力強く握った。母は声に反応して薄く目を開けたが、直ぐ閉じてしまい、その手を握り返す力も残っていないほど弱っていた。
 きっと助かる・・・そう願わずにはいられず、この数日、ろくに食べていない達之助は、雪がチラつく中、山へと駆け出していた。

 山に行く途中、荷車を引く老人を見つけた。一刻も早く、山に登りたくて通り過ぎようとしたが、老人が足取り重くゆっくりと荷車を引いているのを見て、「後ろから押すね」と山の麓まで手伝った。
 「坊や、ありがとな。これ、お礼だ。そろそろ吹雪くから早く帰るんだよ」
 そう言って、団子2つを葉に包んでくれた。達之助は団子を手に取ると、今すぐ口に入れたい衝動を抑え、生唾を飲み込み、ギュルーッと鳴くお腹をさすり、「ありがとう!」と、足早に山へ向かった。

 山に入ると、地蔵の横に大きな鹿が座っていた。達之助は、きっとお腹を空かせて動けないのだろうと、
 「これだけしかないけど、食べて早くお家に帰るんだよ」
 団子を鹿の足元に置いたあと、お地蔵の前にしゃがんだ。
 「お地蔵様、ごめんなさい。最後のお団子はお母さんに食べさせたくて・・・これで勘弁して下さい」
 首に巻いていたボロボロの布きれをお地蔵の首に巻き、
 「それとツユクサを貰っていきますね。母さんが元気になったら、次はお団子作ってきますから」
 達之助は立ち上がりお辞儀をすると、ツユクサを求め、どんどんと山の奥まで入って行った。
 ツユクサは初秋にかけて咲く花。そして朝に咲き、夕方にしぼむ1日花だ。
 それを知っていても、山に入って行った。それしか今の達之助には思いつかなかったから・・・ただ、奇跡を信じて・・・
 わら草履はボロボロで、ほぼ役目を果たしていない。母を助けることだけが足を前に進めた。
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